プリンセスバトル再び(2)
文字数 2,096文字
今度は、耀子先輩の方がシラヌイちゃんに向かっていく。先輩は得意の肉弾戦に持ち込む心算らしい。
「妖樫 !」
シラヌイちゃんが両手を挙げて叫ぶ。すると、何か黄色い粉が、シラヌイちゃんの挙げた両手の辺りに集まって渦を巻きだした。そして、その黄色い粉は、段々と棒状に形を為していく。
結果、黄色い粉は、二本の木刀となってシラヌイちゃんの手に握られた。一方、耀子先輩も立ち止まり、両手を前に伸ばし、両拳を横に繋げて並べる。そして、その拳を離していくと、その間には、まるで左手に見えない鞘を掴んでいたかの様に、冷たい刃が現れてきた。
まだ、斬り合うには距離が離れ過ぎている。だが既に、シラヌイちゃんは、左手の木刀を水平に前におき、右手の木刀は身体の後ろ、耀子先輩に見えない様に隠して構えている。一方、耀子先輩は引いた右足の前に切っ先をおき、下段の構えと云うのだろうか? そんな構えで、シラヌイちゃんを迎撃しようとしていた。
正信老人は電話を繋いだまま、テーブルにスマホを置いている。僕は、そのテレビ電話の老女に解説を求めた。
「木刀と真剣では、シラヌイちゃんの方が不利なのではないですか?」
「斬られた場合には、共に深傷になるもんで、木刀だからって云うデメリットは少のうござんすよ。鍔迫り合いになったら、確かに木の分、若干妖樫の方が不利ですかねぇ。でも、妖樫は不思議な木刀で、金物では断つことも出来ませんし、電気をも通すんでござんすよ。ですから、鍔迫り合いは、耀子さんの方も望む形ではないでしょうねぇ……」
それにしても……、耀子先輩、刀の向きが変だ。峰打ちにでもしようって云うのかな?
「それ程、耀子さんは沼藺を舐めてはおりませんよ。耀子さんの持つ布津御魂剣は、逆反りの神刀なんです。逆反りなんで、切れ味が悪そうに思えますけどね、実は剃刀以上の切れ味と十分な耐久性を兼ね備えた、恐ろしい首斬り刀なんでござんすよ……」
要するに、2人とも、とんでもない武器を持ち出して来たってことか……。
耀子先輩は、消えたかと思うくらいの高速で一気に間合いを詰め、そして、そのまま下段から斜め上に斬り上げる。
シラヌイちゃんは、それを大きく後ろに跳んで躱 し、再び先程の構えに戻した。
「これは沼藺に一日の長がありますね」
テレビ電話の老女が僕に解説してくれる。正直言って有難い。
「どうしてですか?」
「耀子さんは剣に関しては素人。格好は真似している様でござんすが、付け焼き刃の感は否めませんね。沼藺も上手くはありゃしませんが、一応、修行してますからね。これは勝負にならないでしょうねぇ……」
老女の言葉通り、シラヌイちゃんが一転斬り掛かって来ると、耀子先輩は防戦一方となる。だが、耀子先輩の身体の動きが速く、シラヌイちゃんも、まだ攻撃をを当てることが出来ていない。ただ、これは時間の問題だろう。こうなると、シラヌイちゃんの武器が木刀で良かったと思う。真剣で斬られたら、一発で致命傷だったろう……。
「妖樫は、そんな甘い武器じゃござんせんよ。妖樫は羽々斬の別名を持つ木刀で、元々硬い鱗を持つ大蛇を倒す為のもの。皮こそ斬ることは出来ませんが、打つことで肉を斬り、骨を断つ恐ろしい妖刀なんです。これで斬られたら、耀子さんがいくら『皮膚硬化』を使っても、流石に無傷で済む訳には行かないんですよ……」
そんな危うい状況だったのか! じゃ、面や胴を打たれたら、耀子さんは助からないじゃないか……。これが格闘ゲームで本当に良かった。
うわっ! 耀子先輩が追い詰められ、シラヌイちゃんの左の剣で先輩の刀が弾かれる。そして、右の剣が耀子先輩の左の蟀谷付近に襲い掛かった。
僕は、耀子先輩が殺されると思って、思わず眼を閉じてしまった。ゲームと知っていても、耀子先輩が頭骸骨を粉砕され、脳漿を飛び散らされて死ぬ様を見たくなかったのだ。
だが、耀子先輩は死んでいなかった。
間一髪、先輩の右手ファン◯ルが、五弁の花形の盾となって先輩をシラヌイちゃんの攻撃から護ったのだった。
シラヌイちゃんの火の玉は、剣での闘いに変わった時に消えてしまったのだが、右手ファン◯ルは機械仕掛けの玩具だったので、そのまま残されていたのだろう。それが今、こんな形で役に立った。
耀子先輩は、この一瞬で体勢を立て直し、まだ熱そうな地面に左手を宛がう。すると、シラヌイちゃんの足下付近から、次々と火柱が立ち上がった。流石のシラヌイちゃんも、これには一旦離れて 避けるしかない。
溶岩の火柱は、シラヌイちゃんを追う様に、またまだ彼女の足下を襲い続けた。うん、これで耀子先輩は一息つける。
「それだけじゃ、ござんせんよ。この火柱の攻撃で、付近の気温が上昇してますでしょ。あの2人には大したことないですけどね、火に弱い奴は、戦意を無くして逃げ出しちまうんじゃないでしょうかね……」
僕には最初、老女の言っている意味が分からなかった。だが、シラヌイちゃんの両手の木刀が消えたことで、その意味が理解出来たのである。
「妖樫は、それ自身が意思を持っています。そいつが仇になっちまいましたねぇ……」
「
シラヌイちゃんが両手を挙げて叫ぶ。すると、何か黄色い粉が、シラヌイちゃんの挙げた両手の辺りに集まって渦を巻きだした。そして、その黄色い粉は、段々と棒状に形を為していく。
結果、黄色い粉は、二本の木刀となってシラヌイちゃんの手に握られた。一方、耀子先輩も立ち止まり、両手を前に伸ばし、両拳を横に繋げて並べる。そして、その拳を離していくと、その間には、まるで左手に見えない鞘を掴んでいたかの様に、冷たい刃が現れてきた。
まだ、斬り合うには距離が離れ過ぎている。だが既に、シラヌイちゃんは、左手の木刀を水平に前におき、右手の木刀は身体の後ろ、耀子先輩に見えない様に隠して構えている。一方、耀子先輩は引いた右足の前に切っ先をおき、下段の構えと云うのだろうか? そんな構えで、シラヌイちゃんを迎撃しようとしていた。
正信老人は電話を繋いだまま、テーブルにスマホを置いている。僕は、そのテレビ電話の老女に解説を求めた。
「木刀と真剣では、シラヌイちゃんの方が不利なのではないですか?」
「斬られた場合には、共に深傷になるもんで、木刀だからって云うデメリットは少のうござんすよ。鍔迫り合いになったら、確かに木の分、若干妖樫の方が不利ですかねぇ。でも、妖樫は不思議な木刀で、金物では断つことも出来ませんし、電気をも通すんでござんすよ。ですから、鍔迫り合いは、耀子さんの方も望む形ではないでしょうねぇ……」
それにしても……、耀子先輩、刀の向きが変だ。峰打ちにでもしようって云うのかな?
「それ程、耀子さんは沼藺を舐めてはおりませんよ。耀子さんの持つ布津御魂剣は、逆反りの神刀なんです。逆反りなんで、切れ味が悪そうに思えますけどね、実は剃刀以上の切れ味と十分な耐久性を兼ね備えた、恐ろしい首斬り刀なんでござんすよ……」
要するに、2人とも、とんでもない武器を持ち出して来たってことか……。
耀子先輩は、消えたかと思うくらいの高速で一気に間合いを詰め、そして、そのまま下段から斜め上に斬り上げる。
シラヌイちゃんは、それを大きく後ろに跳んで
「これは沼藺に一日の長がありますね」
テレビ電話の老女が僕に解説してくれる。正直言って有難い。
「どうしてですか?」
「耀子さんは剣に関しては素人。格好は真似している様でござんすが、付け焼き刃の感は否めませんね。沼藺も上手くはありゃしませんが、一応、修行してますからね。これは勝負にならないでしょうねぇ……」
老女の言葉通り、シラヌイちゃんが一転斬り掛かって来ると、耀子先輩は防戦一方となる。だが、耀子先輩の身体の動きが速く、シラヌイちゃんも、まだ攻撃をを当てることが出来ていない。ただ、これは時間の問題だろう。こうなると、シラヌイちゃんの武器が木刀で良かったと思う。真剣で斬られたら、一発で致命傷だったろう……。
「妖樫は、そんな甘い武器じゃござんせんよ。妖樫は羽々斬の別名を持つ木刀で、元々硬い鱗を持つ大蛇を倒す為のもの。皮こそ斬ることは出来ませんが、打つことで肉を斬り、骨を断つ恐ろしい妖刀なんです。これで斬られたら、耀子さんがいくら『皮膚硬化』を使っても、流石に無傷で済む訳には行かないんですよ……」
そんな危うい状況だったのか! じゃ、面や胴を打たれたら、耀子さんは助からないじゃないか……。これが格闘ゲームで本当に良かった。
うわっ! 耀子先輩が追い詰められ、シラヌイちゃんの左の剣で先輩の刀が弾かれる。そして、右の剣が耀子先輩の左の蟀谷付近に襲い掛かった。
僕は、耀子先輩が殺されると思って、思わず眼を閉じてしまった。ゲームと知っていても、耀子先輩が頭骸骨を粉砕され、脳漿を飛び散らされて死ぬ様を見たくなかったのだ。
だが、耀子先輩は死んでいなかった。
間一髪、先輩の右手ファン◯ルが、五弁の花形の盾となって先輩をシラヌイちゃんの攻撃から護ったのだった。
シラヌイちゃんの火の玉は、剣での闘いに変わった時に消えてしまったのだが、右手ファン◯ルは機械仕掛けの玩具だったので、そのまま残されていたのだろう。それが今、こんな形で役に立った。
耀子先輩は、この一瞬で体勢を立て直し、まだ熱そうな地面に左手を宛がう。すると、シラヌイちゃんの足下付近から、次々と火柱が立ち上がった。流石のシラヌイちゃんも、これには一旦離れて 避けるしかない。
溶岩の火柱は、シラヌイちゃんを追う様に、またまだ彼女の足下を襲い続けた。うん、これで耀子先輩は一息つける。
「それだけじゃ、ござんせんよ。この火柱の攻撃で、付近の気温が上昇してますでしょ。あの2人には大したことないですけどね、火に弱い奴は、戦意を無くして逃げ出しちまうんじゃないでしょうかね……」
僕には最初、老女の言っている意味が分からなかった。だが、シラヌイちゃんの両手の木刀が消えたことで、その意味が理解出来たのである。
「妖樫は、それ自身が意思を持っています。そいつが仇になっちまいましたねぇ……」