シラヌイちゃんの決断(2)
文字数 2,067文字
誰かが嘆息を吐き、それを合図に姫神様がモニター画面の電源をオフする。
「で、結局……、この勝負、どっちが勝ったんですか……?」
耀子先輩とシラヌイちゃんだけの時は、先輩の方が勝ってるみたいだったけど、鉄男さんが加わった時点では、耀子先輩の余力は残っていなかった。あのまま続行したら、恐らくシラヌイちゃんと鉄男さんの勝ちになったんじゃないだろうか……?
僕の呟きに答えたのは、今度はテレビ電話の老女だった。
「そうですねぇ……。闘った本人、沼藺が勝ったと思ったら沼藺の勝ち、沼藺が敗けたと思ったら、沼藺の敗けでしょうかね……」
当然、僕はこの回答に納得は出来なかった。だが、老女の言いたい事は分かる。
この勝負の賭け。即ち、シラヌイちゃんがお兄さんに会うか会わないかは、シラヌイちゃん次第だと云うことだ。
「でも、見応えのある良い闘いだったんじゃないですか?」
「少し力の差が有り過ぎましたかねぇ。七尾の狐じゃ、真朱 の大悪魔には到底敵いませんからね……。耀子さんも、沼藺も、知ってて闘っていたと思いますよ……。でも、耀子さんが、あんまり遊ぶもんだから、観てる方はそれなりに楽しめましたけどね……」
いやいや、耀子先輩、結構マジだったんじゃないか? シラヌイちゃんを動けなくする為に、四肢の腱を斬ったりして……。
「いえいえ、あんなの、仲の良い子犬が戯れ合ってるみたいなもんでござんすよ。耀子さんも、金丹で直ぐに治せるのを知ってて遣ってますからね……」
そんなもんですかね……。まぁ、ゲームの世界なんで、どっちが死んでも大したことないですけどね……。
「でもね、耀子さんは強い悪魔から力を奪ったり、伝説の魔法使いから魔法を習ったりして強くなれたんですけどね、うちの沼藺は修行して強くなったんですよ。そして、これからもドンドン修行して、ドンドンと強くなってく筈ですから、きっと最後には耀子さんより強くなりますよ。少なくとも、あと尾っぽ2本分は強くなって貰わなくちゃ、私が困っちまいますからね!」
このお婆さん、シラヌイちゃんの身内だったらしい。なんか、最後の台詞の処なんか、孫娘でも見てるような、そんな表情が顔に出ていた。
暫くすると、耀子先輩が奥の襖を開けて、主人の間に帰ってきた。先輩は酷く疲れた様子で、よろけながらこっちに駆け寄って来る。そして、皆が見てると云うのに、崩れる様にして、立ち上がって迎える僕に抱き付いてきた。
「先生……、私に、お帰りのキスをしてくださらない?」
な、何を言ってるんだ……。
こ、こんな、公衆の面前で……。
「橿原先生、ここは接吻して差しあげるのが、紳士の嗜みってもんでござんすよ……」
テレビ電話の老女がそんなことを言う。
だが、それって、本当に紳士の嗜みなのか? まあ良い、僕は周りの目を気にしていただけで、キスしたくない訳じゃない。それで良いって言うのなら、遠慮なく先輩とキスさせて貰う!
でも、その前に耀子先輩は置かれていたスマホに気付いたらしい……。
「あら、政木の大刀自様、観てらっしゃってたんですか? 挨拶が遅れて、申し訳ありません……」
「いいんですよ……。さ、さ、お疲れでしょう? 早くお帰りの接吻とやらを済ましてくださいましな!」
何だか変な感じだなぁ……。
それに、僕が耀子先輩にキスすると、今回は、いつも以上に疲れが押し寄せてくる。なんか、耀子先輩の疲労感が伝染している様な気分だ!
耀子先輩との長いキスが終わり、僕はちょっと動くのも億劫になったので、座り込んで、取り敢えず、先輩と無駄話をすることにした。
「それにしても、本当に闘ってる様な格ゲーでしたね……」
「あら? 本当に闘っていたのよ。だから、こんなに疲れたんじゃない」
ま、コントローラーを握ってたとしても、闘ってることには変わりないもんな……。
「シラヌイちゃんは、強かったですか?」
「そうね。でも彼女、私との相性悪いのよ。兄になら勝てるのにね」
「で、シラヌイちゃんは?」
「あら? 見てなかったの?」
僕がそれに答えようとする前に、テレビ電話の老女が代わりに答えていた。
「姫神様が画面を消しましたよ。だってあの娘 、素っ裸なんですよ。あのまま人間に戻ったら、ちょっと、何ですからね……」
そ、そうか。大狐に変身した時に、白拍子の衣装は全て脱ぎ捨てていたんだ。それで人間に戻ると、確かに素っ裸になるかも知れないな……。でも、そこまでリアルにする必要って、あるのかな?
「じゃ、鉄男さんはどうしたんですか? まさか、シラヌイちゃんの全裸を……」
「先生って、エッチね。まぁ沼藺なら、兄に見られても全然気にしないだろうけど……。兄はあの後、直ぐに『瞬間移動』でどっか行っちゃったわ」
それを聞いてか、テレビ電話の老女がボソッと口を挟んだ。
「そりゃそうでござんしょうねぇ……。あの場で白い霧に戻る訳には、流石に行きませんでしょうからねぇ……」
「白い霧?」
何のことなんだ……?
耀子先輩もあらぬ方を見つめ、「あら、何のことかしら……?」なんて嘯いている。
「で、結局……、この勝負、どっちが勝ったんですか……?」
耀子先輩とシラヌイちゃんだけの時は、先輩の方が勝ってるみたいだったけど、鉄男さんが加わった時点では、耀子先輩の余力は残っていなかった。あのまま続行したら、恐らくシラヌイちゃんと鉄男さんの勝ちになったんじゃないだろうか……?
僕の呟きに答えたのは、今度はテレビ電話の老女だった。
「そうですねぇ……。闘った本人、沼藺が勝ったと思ったら沼藺の勝ち、沼藺が敗けたと思ったら、沼藺の敗けでしょうかね……」
当然、僕はこの回答に納得は出来なかった。だが、老女の言いたい事は分かる。
この勝負の賭け。即ち、シラヌイちゃんがお兄さんに会うか会わないかは、シラヌイちゃん次第だと云うことだ。
「でも、見応えのある良い闘いだったんじゃないですか?」
「少し力の差が有り過ぎましたかねぇ。七尾の狐じゃ、
いやいや、耀子先輩、結構マジだったんじゃないか? シラヌイちゃんを動けなくする為に、四肢の腱を斬ったりして……。
「いえいえ、あんなの、仲の良い子犬が戯れ合ってるみたいなもんでござんすよ。耀子さんも、金丹で直ぐに治せるのを知ってて遣ってますからね……」
そんなもんですかね……。まぁ、ゲームの世界なんで、どっちが死んでも大したことないですけどね……。
「でもね、耀子さんは強い悪魔から力を奪ったり、伝説の魔法使いから魔法を習ったりして強くなれたんですけどね、うちの沼藺は修行して強くなったんですよ。そして、これからもドンドン修行して、ドンドンと強くなってく筈ですから、きっと最後には耀子さんより強くなりますよ。少なくとも、あと尾っぽ2本分は強くなって貰わなくちゃ、私が困っちまいますからね!」
このお婆さん、シラヌイちゃんの身内だったらしい。なんか、最後の台詞の処なんか、孫娘でも見てるような、そんな表情が顔に出ていた。
暫くすると、耀子先輩が奥の襖を開けて、主人の間に帰ってきた。先輩は酷く疲れた様子で、よろけながらこっちに駆け寄って来る。そして、皆が見てると云うのに、崩れる様にして、立ち上がって迎える僕に抱き付いてきた。
「先生……、私に、お帰りのキスをしてくださらない?」
な、何を言ってるんだ……。
こ、こんな、公衆の面前で……。
「橿原先生、ここは接吻して差しあげるのが、紳士の嗜みってもんでござんすよ……」
テレビ電話の老女がそんなことを言う。
だが、それって、本当に紳士の嗜みなのか? まあ良い、僕は周りの目を気にしていただけで、キスしたくない訳じゃない。それで良いって言うのなら、遠慮なく先輩とキスさせて貰う!
でも、その前に耀子先輩は置かれていたスマホに気付いたらしい……。
「あら、政木の大刀自様、観てらっしゃってたんですか? 挨拶が遅れて、申し訳ありません……」
「いいんですよ……。さ、さ、お疲れでしょう? 早くお帰りの接吻とやらを済ましてくださいましな!」
何だか変な感じだなぁ……。
それに、僕が耀子先輩にキスすると、今回は、いつも以上に疲れが押し寄せてくる。なんか、耀子先輩の疲労感が伝染している様な気分だ!
耀子先輩との長いキスが終わり、僕はちょっと動くのも億劫になったので、座り込んで、取り敢えず、先輩と無駄話をすることにした。
「それにしても、本当に闘ってる様な格ゲーでしたね……」
「あら? 本当に闘っていたのよ。だから、こんなに疲れたんじゃない」
ま、コントローラーを握ってたとしても、闘ってることには変わりないもんな……。
「シラヌイちゃんは、強かったですか?」
「そうね。でも彼女、私との相性悪いのよ。兄になら勝てるのにね」
「で、シラヌイちゃんは?」
「あら? 見てなかったの?」
僕がそれに答えようとする前に、テレビ電話の老女が代わりに答えていた。
「姫神様が画面を消しましたよ。だってあの
そ、そうか。大狐に変身した時に、白拍子の衣装は全て脱ぎ捨てていたんだ。それで人間に戻ると、確かに素っ裸になるかも知れないな……。でも、そこまでリアルにする必要って、あるのかな?
「じゃ、鉄男さんはどうしたんですか? まさか、シラヌイちゃんの全裸を……」
「先生って、エッチね。まぁ沼藺なら、兄に見られても全然気にしないだろうけど……。兄はあの後、直ぐに『瞬間移動』でどっか行っちゃったわ」
それを聞いてか、テレビ電話の老女がボソッと口を挟んだ。
「そりゃそうでござんしょうねぇ……。あの場で白い霧に戻る訳には、流石に行きませんでしょうからねぇ……」
「白い霧?」
何のことなんだ……?
耀子先輩もあらぬ方を見つめ、「あら、何のことかしら……?」なんて嘯いている。