配偶者選び(3)

文字数 1,897文字

 青年が一旦引き上げると、暫くしてから今度は青年とその母親らしき女性が連れ立って倉の中に入ってきた。
 青年の母は、髪を丸髷に結い、昔気質の厳し気な表情の、一見気位が高そうに見える女性だった。だが、僕には、彼女の青年を見る目に深い愛情が込められているように思えてならなかった。
「あなたが同席してくれて助かります。薄物になっているとは云え、あれだけの数の女性の裳の脱着は(いささか)か堪えます。恥ずかしいとは思いますが、手伝いをお願いしますよ」
 そうして、二人は一番手近な女性に近づくと、青年が女性を椅子の後ろから抱えて立ち上がらせ、母親が素早く裳を剥ぎとり、手際よく素っ裸にひんむいて椅子に戻した。
 こうして二人は、流れ作業の様に意識のハッキリしない女性たちを、次々と全裸へと変えていく。
「恵美子か……、私はあなたが、この娘を選ぶと思っていたのですけど……」
「恵美ちゃんは妹の様な感じで、そういう意識をしたことが僕はありません……」
「そうですか……。この子は、そうは思っていなかった様ですけど……」
 母親は青年にそう言われたが、矢張り例外を設けてはいけないと思ったのか、克哉さんの妹さんも全裸にして椅子に座らせた。妹さんの胸は、その弾みで上下に小さく揺れる。
 二人は、その隣、耀子先輩の前に移った。耀子先輩は、再びぐったりして薬が効いている体を装っている。
 青年は、それを気付かれない様にする為か、寧ろ機械的過ぎるくらいに無表情に先輩を立ち上がらせ、母親の作業を見守った。
「この娘が良いと言うのですか? ふ~ん、確かに美しい娘ではありますね……。
 でも、生娘にしては、随分と色気が有りすぎる気がするのですけど……」
 母親は裳を取り去ると、少し首を傾げながら裸の耀子先輩を眺めている。そして、青年が先輩の身体を椅子に降ろす瞬間、さっと先輩の股間に手を差し込む。
「ふ~ん……。気のせいの様ね……」
 その時、僕の頭に別の声が響いた。
(ふー危ない。ここ直すの忘れていたわ)
「でも、既に身体が十分に反応している。この娘、最後の一線だけは守っているものの、随分と遊んでいるようですよ。本当にこの娘で良いのですか?」
「ええ! 僕をリードしてくれそうです」

 三十分をしないうちに、女たちは全員裳を剥ぎ取られ、この母子二人の前に全裸を曝すこととなった。
 うん、こうして見ると、中々壮観な眺めだ。仰向けに寝かされていない為、おっぱいが平たく潰れていない。重力の影響はあるのだが、皆若い娘なので、それを支えるクーパー靭帯が未だしっかりしているのだろう。極端に垂れ下がった胸は存在しないようだ。
 そうは言っても、大きめの胸は重力の影響を受け易いので、たっぷりと水を溜めたゴム風船の様な柔らかい曲面を描いているし、小さめの胸は全体が前に膨らんでいる感じになっている。また、膨らみ方も各々異なっており、鏡餅の様にふっくらしたものから、円錐形の形に鋭角的に尖った形のものまである。
 驚いたことに、乳輪や乳首も随分と大きさに個人差があるのだ。乳首など、殆んど皆、指の先ほどの大きさしかないと思っていたのだが、その二倍もある大きさの女性もいたし、陥没して乳首のない女性もいた。
 耀子先輩は大体中庸で、目立った所はない。克哉さんの妹さんも中庸だが、耀子先輩よりはふっくらタイプの胸をしていた。
 それから暫くの間、母親は各女性の身体を触るなり、息子に再び抱えさせて立った時のバランスなどを吟味していった。その中でも、耀子先輩は、青年が前もって「これがいい」と言ったせいか、念入りに肌の具合やら筋肉の付き具合を調べられている。流石に僕も、母親が耀子先輩の首筋、脇、そして陰部の匂いまで確認したのには驚いた。これは彼女にしか行っていないので、最終チェックなのだと思う。
 こうして、配偶者選びは青年の主張が尊重され、耀子先輩が花嫁へと選出されたのである。

 その後、後片付けとして、耀子先輩を除く女性全員の裳を、母子二人で素早く着付けていく。簡易な衣装とは云え、中々大変な作業だ。耀子先輩は、その次の工程の為か、衣服を身に付けるのは未だの様であった。
「では、この者の着付けを村の婦人会に依頼します……。私は居間の倉に戻りますが、あなたはどうしますか?」
「では、婦人会の方が来られるまで、僕が彼女を見守っていましょう。全裸のまま、ここに捨て置くのは流石に無用心ですからね……」
「その様な不届き者がいるとは思いませんが、あなたがそうしたいと言うのなら、そう為されば良いでしょう」
 青年の母親は息子にそう言うと、さっさと配偶者選びの倉から出ていってしまった。
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

甘樫夫妻


橿原邸に住み込みで家を管理する老夫妻。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

加藤亨


耀子と幸四郎が在席した医療系大学の教授で、同大学病院の外科部長。実はミステリー愛好会の創設者にして、唯一無二の部長だった。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

シラヌイちゃんのお兄さんたち


狐や狼を思わせる容貌を持った兄弟。シラヌイちゃんを母親に会わせようと画策する。

橘風雅(犬里風花)


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女(?)。

白瀬夫妻


シラヌイちゃんの両親。オシラサマと呼ばれている。また、それぞれ馬神様、姫神様とも呼ばれている。

紺野正信(狐正信)


藤沢耀子と白瀬沼藺の高校生時代を知る老人。自称、狐忠信の子孫。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

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