彼女以上の怪物(3)
文字数 1,815文字
恐らく、僕が考えていることなど、読心術を身に付けた藤沢さんには筒抜けだったに違いない。それでも、彼女は話を聞きたがるだろうし、僕も最初から話をする心算だ。
今回、耀子先輩を誘ったのは、ひとりの男が僕だけでなく、耀子先輩を名指しで不思議探偵依頼をしてきたからだ。それには「橿原幸四郎先生と藤沢耀子さんに、是非会って話がしたい」とだけ書かれていて、簡単な依頼内容すら書かれていなかった……。
勿論、全く無視しても良かったのだが、僕の他に耀子先輩の名前が並記されているのが少し気になり、僕は記された先に連絡し、チャットで話を聞くことにした。
正直、相手との話は要領を得ず、要約すると、彼の母親が危篤で、絶縁状態にある彼の妹と連絡が取りたいと言うことらしかった。そんなの、どう考えても不思議探偵の仕事とは思えない依頼内容だ。
当然、僕はその由を説明したし、彼の依頼を拒絶しようともした。だが、彼は幾ら説明しても納得せず、何時までも話を終わろうとしない。仕方なく僕も折れ、結局、彼の言う通り、今夜の8時にファミレスで会うという約束に、僕は同意してしまったのだ。
だが、約束はしたものの、僕は彼との待ち合わせをすっぽかす心算でいた。そう、今の今までは……。
僕の気が変わったのは、彼らの言う妹さんの名前が『ヌイ』で、耀子先輩の友だちの話題が偶然にも出てきたからだ。
僕も、シラヌイちゃんの本名が、白瀬沼藺 だったことなど、耀子先輩がそれを口にするまで、すっかり忘れていた。
あの写真が今日、僕の机に置かれたのは偶然に過ぎないのだろう。だが、偶然にも、何か見えない意思が働いたと言えないこともない。それが神の意志か? はたまた悪意ある罠か? それは僕にも分からない。もし、神の意志であるならばそれに従えば良いだろうし、悪意ある罠であるならばそれをした不思議能力者を倒せばよい。それこそ、不思議探偵がすべき仕事に他ならないじゃないか!
そう言う訳で、僕は彼と会うことにし、耀子先輩も誘うことにしたのだ。
藤沢さんは、僕と話をする時間も殆ど与えず、僕に言葉を残して早々に帰っていった。
だが、僕は困惑など全くしていない。彼女には、完全に僕の考えが伝わっている。何故なら、彼女は僕にこう言い残して帰ったからだ。
「橿原先生、お話はお車で聞きますわ。7時半に駅まで迎えに来てくださるかしら? 何時もの場所で待っていますから……」
そして7時28分……。
僕は、耀子先輩と何時もの場所で落ち合い、彼女を僕の車へと招き入れた。
「先生、お誘いは、前持って連絡してくださいね。女性には色々と仕度しなければならないことがあるんですよ……」
僕は彼女の言葉を訝った。彼女は仕事中も綺麗だったし、今も特別なドレスで現れたと云う訳でもない。それなのに、何の仕度が必要だと云うのだろう?
僕の困惑が彼女にも伝わったのか、耀子先輩は顔を赤らめて理由を口にする。
「今日は普通の下着だったの……」
な、何を言ってるんだ……。この人は?!
じょ、冗談にも程がある……!
「アハハハハ、冗談よ。ちょっとした会合があったので、済ませて来たのよ」
いや、心臓がまだバクバク言ってる。良かった。そんなこと言われたんで、どう先輩の気を悪くさせないように断るか? 悩まなければならない所だった。いやいや……、後輩の僕が先輩の誘いを断るなんて出来ない。僕が悩まなければならないのは、まず、お酒を飲みに行くか? それとも、車で直行するか? そっちの方だろう。
まぁ良かった……。少し残念だが……、今日はクライアントとの約束があるのだ。
僕は、待ち合わせのファミレスまでのドライブがてら、これ迄の彼とのやり取りを耀子先輩に話して聞かせた。耀子先輩も助手席で興味深そうに聞いている。そして、僕が話し終わると、僕に質問をしてきた。
「橿原先生は、その依頼主が沼藺のお兄さんだと考えてらっしゃるのかしら?」
「そうじゃないかと考えています。妹の名前はヌイだと言っていましたし、敢えて耀子先輩を名指しで指定して来たのは、耀子先輩がシラヌイちゃんの旧友だってことを彼も知っていたからではないでしょうか?」
「そうね……。でも、こう考えられないこともないわ。これは罠で、橿原先生か私を沼藺の名前を使って誘 きだそうとしている……」
「そんな……」
「だって、沼藺 って名前……、彼女の養父母のオシラサマが付けた名前なのよ……」
今回、耀子先輩を誘ったのは、ひとりの男が僕だけでなく、耀子先輩を名指しで不思議探偵依頼をしてきたからだ。それには「橿原幸四郎先生と藤沢耀子さんに、是非会って話がしたい」とだけ書かれていて、簡単な依頼内容すら書かれていなかった……。
勿論、全く無視しても良かったのだが、僕の他に耀子先輩の名前が並記されているのが少し気になり、僕は記された先に連絡し、チャットで話を聞くことにした。
正直、相手との話は要領を得ず、要約すると、彼の母親が危篤で、絶縁状態にある彼の妹と連絡が取りたいと言うことらしかった。そんなの、どう考えても不思議探偵の仕事とは思えない依頼内容だ。
当然、僕はその由を説明したし、彼の依頼を拒絶しようともした。だが、彼は幾ら説明しても納得せず、何時までも話を終わろうとしない。仕方なく僕も折れ、結局、彼の言う通り、今夜の8時にファミレスで会うという約束に、僕は同意してしまったのだ。
だが、約束はしたものの、僕は彼との待ち合わせをすっぽかす心算でいた。そう、今の今までは……。
僕の気が変わったのは、彼らの言う妹さんの名前が『ヌイ』で、耀子先輩の友だちの話題が偶然にも出てきたからだ。
僕も、シラヌイちゃんの本名が、白瀬
あの写真が今日、僕の机に置かれたのは偶然に過ぎないのだろう。だが、偶然にも、何か見えない意思が働いたと言えないこともない。それが神の意志か? はたまた悪意ある罠か? それは僕にも分からない。もし、神の意志であるならばそれに従えば良いだろうし、悪意ある罠であるならばそれをした不思議能力者を倒せばよい。それこそ、不思議探偵がすべき仕事に他ならないじゃないか!
そう言う訳で、僕は彼と会うことにし、耀子先輩も誘うことにしたのだ。
藤沢さんは、僕と話をする時間も殆ど与えず、僕に言葉を残して早々に帰っていった。
だが、僕は困惑など全くしていない。彼女には、完全に僕の考えが伝わっている。何故なら、彼女は僕にこう言い残して帰ったからだ。
「橿原先生、お話はお車で聞きますわ。7時半に駅まで迎えに来てくださるかしら? 何時もの場所で待っていますから……」
そして7時28分……。
僕は、耀子先輩と何時もの場所で落ち合い、彼女を僕の車へと招き入れた。
「先生、お誘いは、前持って連絡してくださいね。女性には色々と仕度しなければならないことがあるんですよ……」
僕は彼女の言葉を訝った。彼女は仕事中も綺麗だったし、今も特別なドレスで現れたと云う訳でもない。それなのに、何の仕度が必要だと云うのだろう?
僕の困惑が彼女にも伝わったのか、耀子先輩は顔を赤らめて理由を口にする。
「今日は普通の下着だったの……」
な、何を言ってるんだ……。この人は?!
じょ、冗談にも程がある……!
「アハハハハ、冗談よ。ちょっとした会合があったので、済ませて来たのよ」
いや、心臓がまだバクバク言ってる。良かった。そんなこと言われたんで、どう先輩の気を悪くさせないように断るか? 悩まなければならない所だった。いやいや……、後輩の僕が先輩の誘いを断るなんて出来ない。僕が悩まなければならないのは、まず、お酒を飲みに行くか? それとも、車で直行するか? そっちの方だろう。
まぁ良かった……。少し残念だが……、今日はクライアントとの約束があるのだ。
僕は、待ち合わせのファミレスまでのドライブがてら、これ迄の彼とのやり取りを耀子先輩に話して聞かせた。耀子先輩も助手席で興味深そうに聞いている。そして、僕が話し終わると、僕に質問をしてきた。
「橿原先生は、その依頼主が沼藺のお兄さんだと考えてらっしゃるのかしら?」
「そうじゃないかと考えています。妹の名前はヌイだと言っていましたし、敢えて耀子先輩を名指しで指定して来たのは、耀子先輩がシラヌイちゃんの旧友だってことを彼も知っていたからではないでしょうか?」
「そうね……。でも、こう考えられないこともないわ。これは罠で、橿原先生か私を沼藺の名前を使って
「そんな……」
「だって、