白砂の戦い(1)

文字数 1,871文字

 一つ目鴉はパニックを起して、上へと舞い上がってしまった。肝の据わった染ノ助君も、流石にこれには尻餅を搗いて起き上がれずにいる。
「キャー! わ、私、お化けが怖いのよぉ」
 耀子先輩は、そんな冗談を口にしてから、「なんてね」と言って舌を出した。全く、先輩がそんなものを怖がる訳がないだろ!
 耀子先輩は森の方の骸骨と青白い少女を見ている。ならば、僕が海からの骸骨の相手をするしかないだろう。
「幸四郎、骸骨が動く訳ないわ!」
「現に動いてますけどね……」
「あいつ等の関節や腱を見て!」
 僕は骸骨の関節を見た。うん、何か蔓の様な物が関節を繋いでいる。成程、それが腱と筋肉の役目を果たし動かしているらしい。
 となると……、恐らく背骨にも蔓の様な物が通っていて、それでバラバラにならない様に繋いでいるのだろう。
 だが、そうと分かれば大して怖いものではない。そんな物では素早く動けないだろう。それに、白骨化した様な古い骨なら、意外と脆いものではないのかな?
 僕は海側の骸骨の群に向かっていくと、奴らの肋骨や腕の骨を素手で殴りつけてみた。すると、案の定、骨は簡単に折れ、奴らは直ぐに立ち上がる事が出来なくなってしまう。僕はそいつらを踏みつけ粉々に砕いた。
 そうやって僕は、次々と骸骨どもを倒していく。武器すら持たない骸骨など、所詮、生きた人間の敵ではないのだ。
「ヨーコ・スパーキング・アタック!」
 先輩はそう叫ぶと、骸骨どもに向かって走りだし、肩から当たって相手を倒していく。
 でも……、それって……、ただの体当たりなのでは……?
 相手が余りに弱いので、僕も耀子先輩も少し敵を甘く見ていた。その時、鋭い銃声が森の陰から何発か響く。
 僕は「しまった」と思ったのだが、僕たちは誰も倒れはしなかった。僕は最初から狙われてはおらず、耀子先輩は何らかの方法で弾を防いでいる。染ノ助君は身体に弾が命中する寸前に、耀子先輩の右手が翳され彼への攻撃を撥ね返していた。
 しかし……、これはどう言うことなんだ?
 耀子先輩の右手が手首から放たれ、染ノ助君の目の前にある。それも1つではなく5個も。それが桜の花の様に五芒星を描いて、染ノ助君の盾になったのだ。
 そして、耀子先輩が森の陰を

で指差すと、5個の右手首は其々(それぞれ)分散して銃を撃った敵を目指して飛んで行く。
「ファ、ファン◯ル?!」
 それは将に、某国民的なロボットアニメの漏斗型特殊兵器そのものだ。恐らく、先輩もそれをモデルにしたに違いない。
 5個の右手は、左手に変わって拳をつくると、5方向から一斉に銃を撃った骸骨へと光線弾を撃ち込み反撃する。
 いや、もう無茶苦茶ですよ……。
 そして、その返す刀……と言うか、返す右手で、青白い肌の少女の身体へと光線弾を発射。その細い光弾が次々と少女の柔肌を貫いていく。少女は光線弾が命中する度に、身体をくねらせ、最後には砂浜へと倒れ伏した。
 それを終えると、耀子先輩のファン◯ル・ビット擬きは、彼女の襟から胸元へと次々と回収される。染ノ助君も言葉が出て来ないらしく、口を開け、呆然としたまま立ち上がることも忘れている様であった。
 ま、まぁ兎に角……、敵のリーダーは倒した様だ……。

 それにしても、一体何時用意したんだ、あんなもの? それに、あんなことしたら、もう誰も、耀子先輩を人間だとは信じてくれなくなるだろう……。
「何なんですか、今のは?」
 僕の質問には、勿論、多少非難の響きが含まれている。
「私の兄が右手を外して自由に操る術を覚えたのよ。でも、兄ってクレバーさに欠けるでしょう? 折角、そんな面白い術を覚えたのに、『皮膚硬化』と組み合わせ、手裏剣として使うことしか思い付かないの……」
「じゃあ、耀子先輩は、それをどうしたって言うのですか?」
 つい乗せられて、僕はそれを言ってしまった。当然ながら、彼女は嬉々として僕に説明を始める。
「『皮膚硬化』では表面的にしか変化しないから、皮膚の変形をしても右手は右手なんだけど、『変身』能力で10本腕の宇宙人に変身すれば、右手は5本になって、その全部の右手を同時に外すことだって出来るのよ。その分離した右手を軽量化して『気流操作』を使えば空だって飛ばすことが出来るし、分離してから『変身』で左拳にすれば、光線弾だって撃てるのよ。ほんと、私って天才よね!!」
 耀子先輩はそんなこと言ってはいるが、そんなの誰が信じるか!! どうせ、知り合いの誰かに、この玩具を作って貰っていたのだろう。
 ま、とんでもない技術開発力であることだけは、間違いないのだが……。
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

甘樫夫妻


橿原邸に住み込みで家を管理する老夫妻。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

加藤亨


耀子と幸四郎が在席した医療系大学の教授で、同大学病院の外科部長。実はミステリー愛好会の創設者にして、唯一無二の部長だった。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

シラヌイちゃんのお兄さんたち


狐や狼を思わせる容貌を持った兄弟。シラヌイちゃんを母親に会わせようと画策する。

橘風雅(犬里風花)


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女(?)。

白瀬夫妻


シラヌイちゃんの両親。オシラサマと呼ばれている。また、それぞれ馬神様、姫神様とも呼ばれている。

紺野正信(狐正信)


藤沢耀子と白瀬沼藺の高校生時代を知る老人。自称、狐忠信の子孫。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

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