プリンセスバトル再び(4)
文字数 1,912文字
2メートルはありそうな巨大な狐に変身したシラヌイちゃんは、三面六臂の悪魔と化した耀子先輩を噛み殺そうと、空から地上、地上から空へと襲い掛かる。その速さは、先程、耀子先輩が布津御魂剣を持って斬り掛かった速度に匹敵するだろう。
だが、耀子先輩も、その速度に負けない速さで、シラヌイちゃんの連続攻撃を躱 していく。画面を追うだけなのに、僕はもう目がついていかない程だ。
だが、良く見ると、いつの間にか攻守が逆転している。狐が耀子先輩から離れようとしているのに、耀子先輩がシラヌイちゃんを逃すまいとくっついているのだ。
「私はテツとは違うのよ……」
耀子先輩の声が聞こえた。
そして、段々に、シラヌイちゃんの動きが緩慢になっていく気がする……。
「気がするんじゃなくて、遅くなってるんでござんすよ。耀子さんは『質量重力変換』で、沼藺の質量を操作して、動きを邪魔してるんです。沼藺もそれを知って、術の影響範囲から逃げ出そうとしてるんですけどね、耀子さんは『高速移動』を使って、沼藺の傍から離れないんですよ……」
老女が僕に解説してくれる。だが、そんなこと、シラヌイちゃんは何故、気付かなかったのだろうか?
「以前、耀子さんのお兄さんが同じことをしたんでござんすけどね、上手く行かなかったんでござんすよ。それで沼藺は、この攻撃を少し甘く見たのかも知れませんねぇ……」
シラヌイちゃんと鉄男さんも、ゲームで闘ったことがあるんだ……。でも、どうして、鉄男さんは失敗して、耀子先輩だと上手く行ったんだ?
「要様は『高速移動』で近づいて、沼藺の質量を増加させようとしたんですけどね、『高速移動』するには、自分の質量を低減させる必要があったんですよ。それで、『質量増加』を掛けるんですけど、その瞬間に沼藺に逃げられちまったんです。どうも、増加と低減を同時にすることが出来なかったんでござんすね……。でも、耀子さんは……」
「それが出来た……」
「そうではない様です。耀子さんは沼藺の質量を増加しなかった。それどころか、寧ろ低減させた。自分ごと……」
「それじゃ、シラヌイちゃんも速くなるじゃないですか?」
「そうでもないんでござんすよ……。突然、自分の身体が軽くなると、上手く走れなくなるもんなんです。耀子さんはそれに慣れている。それで、どんどん沼藺の動きを封じていったみたいでござんすよ……」
成程、確かに質量が突然小さくなると、足が地に着かなくて走りづらいかも知れない。空気抵抗の影響も大きくなるし、恐らく、プールの中で走る様な感じになるのだろう。
画面では、動けなくなった黒狐のシラヌイちゃんの回りを、蒼や紫の火の玉が舞って、耀子先輩の攻撃を邪魔しようとしている。だが、それも、例の右手ファン◯ルに由って封じられた。
そして、耀子先輩の6本の腕の先、人差し指と中指が伸びてサーベルとなり、遂に大狐の四肢の腱を切り裂き、胴にもその剣を突き立てる。恐らく、これで勝負あったろう。
「以前闘った時は、テツに邪魔されて殺し損なったな……。今度こそ、確実に光線砲で焼き殺してやる。覚悟するんだな……」
耀子先輩はそう言って不敵に笑った。
「おい、これは止 めた方がいい。耀子ちゃんは闘いでハイになると、見境いが付かなくなっちゃうんだ!」
正信老人が興奮して騒ぎだす。それに合わせる様に、風花ちゃんや白瀬夫妻も慌てだした。バトルゲームなのに何言っているんだ?
「慌てなくても大丈夫でござんすよ。耀子さんの光線砲なら、最大出力でも沼藺は耐えられる筈ですからね……」
だが、そう言ったテレビ電話の老女も、画面を目にして言葉を失っていた。なんと、耀子先輩は少し離れて、大ヤスデに変身していたのだ。本当、何でもアリだな……。
そして、唖然とする一堂を知ってか知らずか、先輩は身体を円盤状に巻き付け、その幾つもある左手で拳を作って、その拳を全て大狐に向けている。これは、なんなのだ?
「耀子ちゃんは、大ヤスデに変身して、その沢山の拳全てから、一斉に最大出力の光線砲を発射する心算だ!」
正信老人が叫ぶ……。
なんか、凄いことの様だ。そう言えば、全ての拳が光輝き出している。
「間に合わない……。流石に、これは、沼藺様でも、耐えられる筈がない……」
正信老人が呟いて間もなく、大ヤスデの円盤の左側面が、サーチライトの様に、一斉に眩く輝いた。その余りの明るさに、暫くは誰もが眼を開くことは出来なかったのではなかろうか?
恐らく、シラヌイちゃんの大狐は、あの攻撃で死んだのだと思う……。
ゲームの決着は着いた……。耀子先輩の勝ちだ。これで、2人のお兄さんは、シラヌイちゃんに会うことが出来る……。
だが、耀子先輩も、その速度に負けない速さで、シラヌイちゃんの連続攻撃を
だが、良く見ると、いつの間にか攻守が逆転している。狐が耀子先輩から離れようとしているのに、耀子先輩がシラヌイちゃんを逃すまいとくっついているのだ。
「私はテツとは違うのよ……」
耀子先輩の声が聞こえた。
そして、段々に、シラヌイちゃんの動きが緩慢になっていく気がする……。
「気がするんじゃなくて、遅くなってるんでござんすよ。耀子さんは『質量重力変換』で、沼藺の質量を操作して、動きを邪魔してるんです。沼藺もそれを知って、術の影響範囲から逃げ出そうとしてるんですけどね、耀子さんは『高速移動』を使って、沼藺の傍から離れないんですよ……」
老女が僕に解説してくれる。だが、そんなこと、シラヌイちゃんは何故、気付かなかったのだろうか?
「以前、耀子さんのお兄さんが同じことをしたんでござんすけどね、上手く行かなかったんでござんすよ。それで沼藺は、この攻撃を少し甘く見たのかも知れませんねぇ……」
シラヌイちゃんと鉄男さんも、ゲームで闘ったことがあるんだ……。でも、どうして、鉄男さんは失敗して、耀子先輩だと上手く行ったんだ?
「要様は『高速移動』で近づいて、沼藺の質量を増加させようとしたんですけどね、『高速移動』するには、自分の質量を低減させる必要があったんですよ。それで、『質量増加』を掛けるんですけど、その瞬間に沼藺に逃げられちまったんです。どうも、増加と低減を同時にすることが出来なかったんでござんすね……。でも、耀子さんは……」
「それが出来た……」
「そうではない様です。耀子さんは沼藺の質量を増加しなかった。それどころか、寧ろ低減させた。自分ごと……」
「それじゃ、シラヌイちゃんも速くなるじゃないですか?」
「そうでもないんでござんすよ……。突然、自分の身体が軽くなると、上手く走れなくなるもんなんです。耀子さんはそれに慣れている。それで、どんどん沼藺の動きを封じていったみたいでござんすよ……」
成程、確かに質量が突然小さくなると、足が地に着かなくて走りづらいかも知れない。空気抵抗の影響も大きくなるし、恐らく、プールの中で走る様な感じになるのだろう。
画面では、動けなくなった黒狐のシラヌイちゃんの回りを、蒼や紫の火の玉が舞って、耀子先輩の攻撃を邪魔しようとしている。だが、それも、例の右手ファン◯ルに由って封じられた。
そして、耀子先輩の6本の腕の先、人差し指と中指が伸びてサーベルとなり、遂に大狐の四肢の腱を切り裂き、胴にもその剣を突き立てる。恐らく、これで勝負あったろう。
「以前闘った時は、テツに邪魔されて殺し損なったな……。今度こそ、確実に光線砲で焼き殺してやる。覚悟するんだな……」
耀子先輩はそう言って不敵に笑った。
「おい、これは
正信老人が興奮して騒ぎだす。それに合わせる様に、風花ちゃんや白瀬夫妻も慌てだした。バトルゲームなのに何言っているんだ?
「慌てなくても大丈夫でござんすよ。耀子さんの光線砲なら、最大出力でも沼藺は耐えられる筈ですからね……」
だが、そう言ったテレビ電話の老女も、画面を目にして言葉を失っていた。なんと、耀子先輩は少し離れて、大ヤスデに変身していたのだ。本当、何でもアリだな……。
そして、唖然とする一堂を知ってか知らずか、先輩は身体を円盤状に巻き付け、その幾つもある左手で拳を作って、その拳を全て大狐に向けている。これは、なんなのだ?
「耀子ちゃんは、大ヤスデに変身して、その沢山の拳全てから、一斉に最大出力の光線砲を発射する心算だ!」
正信老人が叫ぶ……。
なんか、凄いことの様だ。そう言えば、全ての拳が光輝き出している。
「間に合わない……。流石に、これは、沼藺様でも、耐えられる筈がない……」
正信老人が呟いて間もなく、大ヤスデの円盤の左側面が、サーチライトの様に、一斉に眩く輝いた。その余りの明るさに、暫くは誰もが眼を開くことは出来なかったのではなかろうか?
恐らく、シラヌイちゃんの大狐は、あの攻撃で死んだのだと思う……。
ゲームの決着は着いた……。耀子先輩の勝ちだ。これで、2人のお兄さんは、シラヌイちゃんに会うことが出来る……。