恵人の編8

文字数 526文字

「すみません」
 申し訳ないという顔をして、眼を足下に落とし、素直に謝った。
 その瞳を戻すと、沢口がズボンの前ポケットに右手を突っ込んで、何かを探っていた。そして50円硬貨を取り出すと賽銭箱に投げ入れた。
 それを眼にした恵人は慌てて自分の全ポケットを探った。が1円も持っていなかった。
「恵人、これを使え。それより、さあ、これから、おまえの新しい体を探すぞ」
 沢口が声とほぼ同時に、手首のスナップを軽く利かせて硬貨を飛ばしてきた。
「え? うそっ」
 キャッチしたモノを見て、恵人の眼は一瞬、点になった。
 モノは硬貨ではなく、パチンコ玉だ。子供なので、やった経験はもちろんないが、パチンコの玉に間違いない。一人でパチンコ店の前を通ったとき、道に落ちていた鉛玉とそっくりだった。それを拾おうとすると、トンビが横からエサを奪うかのように、いきなり浮浪者風の中年の男が背後から現れて先に拾われた。男は横取りした球を手にすると、当たり前のようにパチンコ店の中に入っていった。
 ふと思い出したそのときの光景が頭から霧のように消えていくと、パチンコ玉には仙人の顔が登場してきた。
 賽銭箱から取り出したパチンコ玉を眼にして、ひどく腹を立てている顔だ。 
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