恵人の編6

文字数 506文字

 二人の問答を耳にして、恵人の頭は沸騰していた。まだ中学にも入学していない年若の上に、かなり興奮して聞いていたので、自分が生き返れるという言葉以外は、仙人が何を言っているのかさっぱり分からなかった。まるで船や車にでも乗船乗車して、操縦や運転でもするかのように聞こえていた。
「言っていることがわかりません。死んだ自分の体に戻れない。生きている他の人間にも、乗り移れない。いったいどうやって生き返るのですか?」
 声のトーンがいっそう上がった調子で、沢口が聞き返した。
 その話しぶりや興奮しているような顔からして、沢口もきっと自分と同じような気持ちなんだろうと、恵人は思った。
「脳死になっている人間の体だよ」
「え? 脳死の人間?」
「ああ、そうだ。脳死の人間は、体は生きている。いうなればドライバーのいない走れる車のようなものだ。いいか、脳死といっても脳細胞が全て死んでいるわけではない。今の医学では蘇らせることができないだけだ」
 恵人は、車にドライバーと聞いてびっくりした。肩を掴んで相手の心を読み取れる沢口よりも、仙人の読心術はさらにバージョンアップをして、話をしながらも自分の心を読みとったのか? 
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