恵人の編18

文字数 512文字

 宮殿に入る前とは、まるで別人のように、様子ががわりと変わっていた。ひどく疲れたように背中をいくぶん丸め、魂を抜かれて元気が失せたような足取りをして、何かすごく嫌な重荷でも背負っているような暗い表情をしていた。
「恵人とかいったな。おまえの願いを叶えてあげよう。ただし、願いを聞き入れる条件がある。生き返ったら、この沢口が監視役として、おまえの背後霊のようにぴたりとついてまわる。この先、おまえの身勝手な行動は認めない。それが、おまえの願いを叶えてやる条件だ」
「守ります。絶対に守ります。沢口さんの言うことに従います」
 内心は、ほぼ諦めていた仙人の予想外の言葉に、恵人は歓喜の心を全身に表し、声を弾ませて頷いた。喜びのあまり天にも昇りたい思いだった。
 既に、天には昇ってはいるが。いや、天国には、まだ上っていなかった。
「いいか、口で言うのは簡単だ。だが信じられない力を持つ新しい肉体を手に入れたら、いまの言葉を守れるかだ。もし、それがで きな ければ、おまえは、全てを失うことになる。そのことを忘れるな。わかったな。ついて来なさい」 
 喜ぶ心を射貫くかのように、仙人が眼を真っ直ぐ見て、強い口調で忠告してきた。 
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