沢口の編１２

　隼人の父と母、妹の３人は、ベッドに横になったままだが、眼を開けている姿を見るや否や、喜色満面の顔になった。
「隼人！」
　父親が満面の笑みで驚いた顔で声を上げた。
「隼人っ、眼を覚ましたのね！」
　すぐに母親も同じ顔に続いて、うれし泣きしそうな声を上げた。
「お兄ちゃん」
　妹もすぐに同じように続いて声を上げた。
　声を上げた３人は歓喜一色を全身に表し、ベッドに座っている隼人に、いや、恵人の傍に駆け寄った。
「よかった、よかったわ、お医者さんは脳死だと、言っていた、のに、生き返った、のね、うううう」
　母親が声を詰まらせ涙を頬に流したまま、恵人が憑依した、いや乗り移った、やせ細った体を強く抱きしめた。
　商店街などでよく見かける肝っ玉母さんではなく、上品そうな少しほっそりとした母親だが、それでも力を入れすぎると、ミイラの骨がボキッと折れないか、心配だ。