恵人の編5

文字数 409文字

 宮殿も家主の頭と同じように広間以外は偽装していたのか、と思考を巡らせていると、瞳と心を釘付けにするものが眼に飛び込んできだ。
 何もない広間の中央、鏡のように磨き上げられた大理石の床に、ポツンと一軒家、いや目立つように置いてある石造りのベッドを、両目を点にして凝視した。
 それはどう見ても、中南米のインカ帝国やアステカ、マヤ文明の遺跡などにある生贄の儀式に使うような、おどろおどろしいベッドにしか見えなかった。
 すると嫌な予感が頭に、もくもくと湧いてきた。本当は、沢口と仙人が共謀して美少年の体を美味しくいただこうと、巧妙にワナを仕掛けたのかもしれない、との妄想が脳裏に噴出した。
 血痕でも残っていそうな疑惑のベッドを眼にして、自分が見事な化け物に変身していることをすっかり忘れて、生贄に選ばれた美少年のつもりになった。
 そこに生贄を仕切る仙人の声が、耳に響いた。
「そこに横になって、目を閉じていなさい」
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