恵人の編10

文字数 383文字

 すると瞳に、春の残雪が所々に残っている富士山の頂にある鳥居が映った。
 確か、あそこには奉納されている賽銭が。中には的を外れて賽銭箱の周りに落ちている硬貨も、きっとあるはずだ。それが頭に浮かぶと、また邪心がもくもくと湧いてきた。
 沢口の倍、百円硬貨を拾って賽銭箱に入れれば、御利益は2倍かも。2百円なら4倍だぞ、と、あの囁き男がまだ頭に居座っていた。
 頭をブルっと横に振って、囁き男を追っ払った。変に声変わりした老けた声、いや落ち着いた声と違って、まだ少年の心は完全には消えてはいなかったようだ。
 その発展途上中の心に、別の思考が浮かんできた。
 仙人が二人とも宇宙好きと言っていたが、沢口も自分と同じように、あの宇宙旅行をしていたのだろうか? 
 それを確かめようと、不謹慎な心で眺めていた鳥居に名残り惜しく別れを告げ、沢口の方向に顔を上げたときだった。
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