沢口の編3

文字数 412文字

 だが体内に戻っても、指1本さえもピクリとも動かすことができなかった。もう生き返ることなどできなかった。それどころか、自分の体なのに、引き離されるようにして宙に浮いた青年は、相当ショックを受けたようで、頭を前にがっくりと落し、通夜の遺族のような顔をして肩を丸めて項垂れていた。
「わかっただろう。残念だが、君はもう、その体に入って生き返ることができないのだよ」
 沢口は同情の声を落とし、項垂れている青年の心を気遣った。無理もないことだ。
 この世に生まれて、これまで一心同体だった肉体を自分は動かせないのに、他人が自在に操ることができるのだから。逆の立場だったら、誰もが同じように騒ぐだろう。
「気を落させてしまって、すまんな」
 落ち込んだ青年の気持ちを思うと、直ぐにはその言葉しか出てこなかった。
「どうして? 僕は戻れないで、あの子は、僕の体に、入れるのですか?」
 青年が頭を擡げて、身に縋るように訊いてきた。

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