沢口の編15

文字数 393文字

「あのヤブ医者たち、失礼しちゃうわよね。まるで隼人に生きて帰られたら困るみたいに、あれこれと検査して。自分たちの過ちを認めようとしないで、損害賠償で訴えたいぐらいだわ 」
 母親の涼子が、不満たらたらの顔を父親に向けた。
「そうよ。父親が防衛大臣なんで、関係ないわ。街で軍歌の騒音をまき散らしている右翼団体の軍服のような恰好をした人たちを引き連れて、アホみたいに大きな金の指輪をした怖い顔の暴力団みたいな人が見舞いにくる男に、お兄ちゃんの臓器を引き渡そうとして」
 妹の幸恵が、機関銃のような声を飛ばして母に同調した。
「まあ、いいじゃないか。こうして隼人も無事に退院できたのだし、延命治療のおかげで奇跡が起きたわけだから」
 一郎は、涼子と幸恵を宥めた。
「でも、やっぱりどこか納得できないわ。この病院には、もう二度と来ないわ」
 涼子の怒りは、当分の間、収まりそうにもなかった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み