恵人の編3

文字数 333文字

 恵人は恐怖に怯えた顔を引きつらせ、悲鳴さえも出せない口を大きく開けて、逃れようと必死にもがいた。が、まるで金縛りにでもあったかのように、瞳以外は頭を左右に動かせるだけで、指さえも動かすことができなかった。
 その巨大な手が、全身を覆ったときだった。
「起きなさい」
 また仙人の重厚な声が耳に届くと、巨人の手と星々の世界は消えていた。
 恵人は、両瞼をゆっくりと開いた。子熊が長い年月を経た冬眠から目覚めたような、不思議な感覚だった。
 自分が、別人になったような気分だった。
 思わず顔を触ると、元のままだ。いや、額を抉られた化け物顔ではなく、本来の美少年の顔に戻っていた。それに、長い間寝ている間に治療でもしてくれたのか、折れていた左腕もすっかり治っていた。
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