恵人の編12

文字数 496文字

「人類の未来を、恵人が変えて しまう?」
 沢口がさらに驚いた顔で聞き返した。
「ああ、そうだ。魔物たちがこの子の霊力に目をつけ、未熟な心に付け込んで自分たちの仲間に引きずり込もうとするのは間違いない。この子の心を操り、人類社会を滅ぼそうとするだろう」
 仙人は険しい顔になって返答してきた。その目は、何かを睨んでいるかのようだ。
「僕は、悪魔の仲間になんか、絶対になりません。そいつらを、全部やっつけます」
 恵人は興奮を抑えきれず、昂った声で自分の意思を伝えた。
「君の眼を見ていればわかる。正義感がすごく強い少年だということを。だが君は、自分で命を絶った。そんな心の弱い君が、世界中の誰よりも強い体を手に入れたとき、悪魔の誘惑を絶ち、平常心でいられるかな?」
「……ぼ、僕は、1人ぼっちになった弟を守りたいんです。弟は僕が自殺したせいで、僕と同じように、自殺するかも知れないんです」
 重厚な声と一緒に鋭い眼をやる仙人の身に、恵人は縋るように吐露した。
「恵人の両親は、南海トラフ地震の津波で亡くなって、弟が児童養護施設にいるんです」
 沢口が、自分の代わりに身の上を説明した。


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