沢口の編5

文字数 454文字

「安室? 安室って、あの安室奈美恵と同じ姓か?」
 沢口は少しびっくりした口調で聞き返した。
「ええ、そうです」
「じゃ、安室奈美恵と親戚なの?」
 沢口は期待の眼で、ぶっきらぼうな声で応えた青年の、安室の通夜顔を見た。
「いえ、違います。姓が同じだけで、血縁関係はまったくないです」
 青年は体を他人に取られたことが、まだよっぽど悔しいのだろう、いかにも腹立たしいという顔を露わにしたまま、同じ口調で言葉を返してきた。
「そうか~、それは残念だ。親戚だったら、手をまわしてサインを貰おうと思ったのに」
 沢口は言い返しながら、すごく残念という顔を浮かべた。
 その残念で思い出した。沖縄に赴任しているときだった。安室奈美恵の20周年記念沖縄公演のチケットが運よく手に入った。ところが楽しみにしていたライブは、いじわるな台風の来襲で無くなってしまい、見ることができなかったことを。まあ、仮に公演があったとしても、休みを返上して台風の遭難に備えて待機する羽目になったので、どっちみち見に行けなかったが。



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