恵人の編7

文字数 422文字

 何も貰っていない。出血大サービスという言葉に、特に力を込めて仙人は言い残すと、なぜか賽銭箱だけを目立つように登場させて、宮殿ごと霧のように消えていった。
 すると、周りを彩っていた美しい景色も、その後を追うように消えていった。味見したかった果実も、本物の人間なのかを確かめたかった、できれば宝石のように美しかった綺麗だったお肌にも触れてみたかったコスプレの美少女たちも、別れも告げずに消えていった。
 周りは元の雲海に戻り、恵人たちは取り残されたように、その場に立っていた。
 いや、正確には浮いていた。賽銭箱の前で。
「恵人、仙人の顔をじろじろと見ていたが、おまえが想像していた通り、仙人は老人ではない。それと、髪も髭も本物ではない」
「え? そうなんですか? やっぱり」
 恵人は納得した顔に目を丸くして、驚いた声で聞き返した。
「もう少しで、仙人の機嫌を損ねるところだったぞ」
 窘めるような眼で睨まれて、少し強い口調で注意された。

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