恵人の編14

文字数 398文字

 沢口に答えていた雰囲気からして、自分は生き返ることができるものと楽観的に思っていた。がその甘い考えは、あっさりと打ち砕かれた。
 絶望という名の猛吹雪に吹き飛ばされ、崖の淵に落ちた体を極寒の暗黒の奈落の底に突き落とされていく思いだった。
「駄目だ! 帰れ!」
 絶望に追い打ちをかけるように、仙人の言葉が飛んできた。
「いやです。ここを離れません! 弟を、どうか弟を守らせてください。誰にも、絶対に迷惑をかけませんから。お願いします、お願い、し、ます」
 恵人は涙を頬に零し、必死に訴え続けた。
 このまま施設に戻ることはできない。ここで退いたら、恵吾が自殺してしまう。それが一瞬、頭に過り、胸が張り裂けそうだった。
 頭がどうにか、気が変になりそうだった。
「この子がもし、人の道を踏み外したとき、何か止める方法はないのですか?」
 横で聞いていた沢口が、願いを助勢する口調で口を挟んできた。
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