沢口の編4

文字数 531文字

「ま、それを説明すると長くなってしまうが、あの子も、君の体には入れても、既に死んでいる自分の体では、生き返れないんだよ。君には本当に申し訳ないが、ある事情があってね、あの体に入らせてもらった」
 沢口は答えると、青年から眼を逸らし、また元の植物状態で横たわっている肉体を曇った眼で見つめた。
「どういう事情です?」
 青年が通夜のような顔をしたまま訊いてきた。
「ま、その事情は後で説明するとして。あの子が君の体に入れたことで、君は、あの子と一緒についてまわることもできるようになる。まあ、君が望めばだが」
「もちろん、僕は決して離れませんよ。あの小学生が、僕の体を使って何をしでかすか、僕の体を使って悪さでもされたら、たまったもんじゃないですからね」
 落ち込んでいた青年が、また怒り声を張り上げてきた。そして肉体に無賃乗船を、いや乗り移って、アバターか操り人形のように操作した恵人を、恨めしそうに睨んでいだ。
「よし、それじゃ決まりだ。ところで君の名前は?」
 沢口は、怒りが収まらない青年の心を少しでも和らげようと、しばらくの間使っていた化け物顔ではなく、イケメンの顔に微笑みのおまけを付けた明るい声で訊ね た。
「僕の名前? 安室(あむろ)隼人です」

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