恵人の編2

文字数 402文字


「まあ、まあ、そう熱くなるな恵人、あっ隼人か。どうもややこしいな。聞こえてくる声は恵人だが、動く口は隼人で、名前も恵人に、隼人か。ダブル人(と)だな。おっとと間違えそうだ。トドが2匹。どうだ、面白いだろ? 流行語大賞、間違いなしだ」
 ベッドに座っていた沢口が、茶目っ気たっぷりに口を挟み、となりのトトロに出てくる猫バスのような笑みを浮かべた。
「どこが、面白いんですか? ちっとも面白くありません」
 隼人が鼻息まじりの声を飛ばした。
 どうやら怒り顔になっているのは、母親が帰り際に退院祝いにと奮発して買ってきた、隼人の大好物のマンゴーを、自分の代わりに食べられたことも理由の一つのようだ。
 その証拠に、家族で仲良く食べているときだった。
 こいつにはもったいない、水だけで十分だぞ! とひどく騒ぎたてながら、隼人は喉に入っていくマンゴーを取り返そうと、口の中に手を突っ込みそうな顔をしていた。
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