恵人の編11

文字数 368文字

「恵人、行くぞ」
 沢口の強い声が耳に飛び込んできた。
 その顔は、何か大事な物でも発見したのか、眼下を強い眼光で見つめていた。見つけたのは、ひょっとして、お金? 百円玉か? いや、ここからでは1万円札でさえも見えない。
 両目には、蟻の行列のように山中湖に沿った道を走る車と、湖畔や町中を歩く人たちが米粒のように見えているだけだ。
 すると沢口が返事も聞かずに、雲の地面を蹴っていきなり急降下を始めた。それを見た恵人は慌てて、その背中を追って無意識に後に続いて飛び降りた。
 驚いた。自分も沢口のように空を高速で飛べ ている。
 仙人が授けた超霊力の威力に驚嘆しつつ、また自分は生き返ることができるとの歓喜を胸に、わくわくしながら後を追っていると、あの壮大な宇宙世界が脳裏に浮かんできた。
 自分は本当に、宇宙にいたのだろうか? 

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