恵人の編7

文字数 502文字

「それじゃ、恵人は、その肉体を使って、生きていた世界に戻れるのですね?」
「そのとおり。ただし、ここで問題がある」
 そりゃあ、大問題だよ。免許が無いと運転できない。だけど自分は中学生だ。まだ免許を取る年齢には達していないし、と少年の妄想脳がいきなり湧いてきて、仙人の言葉に反応した。
 恵人は、興奮が落ち着くどころか、ますますぶくぶくと沸騰した脳に、でたらめに沸いてくるこの可笑しな妄想をすぐさま追っ払った。そして胸躍る心を鏡のように映した瞳を、仙人の顔に向けたまま、続きを見守った。
「それはどういう問題ですか?」
 だからさあ、運転免許がさあ、といい加減な口振りで、またも耳元に囁いてきた声を、恵人はすかさず蹴飛ばし、心の奥に消滅させた。
 蹴飛ばした男の正体は脳みそが、ぶくぶくと沸騰しているせいだけではないようだ。ひょっとして最近テレビに氾濫しているお笑い芸人たちの笑えない、くだらない突っ込みを見すぎたせいかもしれない。よりによって、こんな場面で意味不明の妄想が湧いてくるとは。生き返ったら、もうそういう類のくだらない番組を見ないようにしようと思った。
 本当に実行できるかは、怪しいが 。
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