恵人の編6

文字数 451文字

 不安を抱きながら仙人に眼を向けると、金色の宝石のような数珠を右手に持ち、生贄の儀式を取り仕切る霊媒者ではなく、寺の僧侶のような顔をして側に立っていた。
 その立ち振る舞いに少し安堵して、嫌な空想は頭の片隅に蹴散らされた。が、疑惑のベッドを眼にすると、蹴散らされた片隅から疑心がまた、にょきにょきと芽生えてきた。
 その沸き上がる疑心と不安を鎮めてもらおうと頭と眼を動かし、沢口を探した。沢口は、仙人と向かい合わせに立って自分の顔を見ていた。
 がその顔面も、天井から差し込む光が反射しているせい か、不気味さがいっそう増していて、マグロの解体ショー、いや生贄の料理支度でも待っているかのように見えてきた。
 もしかしたら、沢口が腕を腰に回しているということは、手には出刃包丁に、焼き肉のタレや市販か自家製のステーキソースが。他に胡椒やニンニクなど、好みの香辛料も。
 やはり自分は、生贄になるかもしれない、との不安を引きずりながら、冷凍室にでも保存してあったのか? やけに冷たいベッドに横になった。
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