恵人の編9

文字数 449文字

「半中学生?」
 仙人が聞き返すと、少し首を傾げるような仕草をしていた。頭髪に疑いがある頭が傾くのも、いや傾げるのも当然だ。そんな言葉など、どの辞書にも載っていない。
「この子は、中学校の入学式の前日に、母校の校舎から飛び降り自殺しました。中学校には入学していないんです。ですから半中学生です」
「ハハハそうか、半中学生か。面白い造語だな」
 本人の歯でないとすれば、霊界でも総入れ歯は有りなのか? 老人にしてはずいぶんと歯並びの良い口を開けて、仙人が笑った。
「ちっとも面白くもなんともありません。中学校の入学通知もきていました。僕は学校の入学式に行かなかっただけです」
 恵人は口を尖らせ、顔を膨らませた。
 それから仙人の歯を見ていて、改めて沢口の歯の色に眼をやった。化け物顔に相応しい歯垢が付いた黄ばんだ汚い歯だと思ったら、意外にも綺麗な白い歯をしていた。
 その歯を見て、ふと思った。霊界でも虫歯菌はいるのだろうか? 
 もしいるとしたら、やばい。自殺する前に、歯磨きをしていなかった。
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