恵人の編8

文字数 490文字

 恵人は脳を沸騰させたまま、わくわくした顔で仙人の答えを待った。
「この子は生き返っても、元の自分に戻ることはできない。脳死から蘇った人間として振る舞い行動しなければならない。この子は、まだ小学生だろう?」
「いえ、僕は中学生です」
 興奮冷めやらぬ胸躍る顔を向けたまま、大きな声で口を挟んだ。
 生き返る、という言葉をまた耳にして、いっそう心が躍った。沢口たちがいなければ、喜びの大声を出すか、阿波踊りのように踊り出したい思いだった。
「いや、この子は半中学生です」
 沢口がすかさず横やりを入れてきた。まだ興奮が冷めないような顔に、いたずらっぽい眼の色を乗せていた。
 恵人は少し反発の眼で、沢口の顔を睨んだ。が、そう言われることに、もうそんなに抵抗感はなかった。そういう気持ちになっている理由の一つには、見慣れている化け物顔と同じように、聞き飽きた、いや聞き慣れたせいなのだろうか? それとも醜男にひっつく美女のように。いや気持ちが高揚し、ウキウキしているせいに違いない。
 すっかり気にならなくなっていた。
 沢口の顔は相変わらず、不気味であることに何も変わりはないが。
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