沢口の編16
文字数 409文字
そのやり取りを見つめていた隼人は項垂れて、悲しみと悔しさを混ぜたような、ひどく暗い面を落としていた。そして頭を擡げると、春爛漫の笑みを浮かべる家族と談笑して歩いている恵人への強い嫉妬を滲ませた面を露わにして、恨めしい眼で見つめていた。
「隼人」
沢口は、姓ではなく名前を呼んだ。
「179日が経つと、恵人は、君の体から抜け出せなくなる。そして死んだら、もう、この霊界には戻れない。霊としても存在できなくなる。当然、天国にもいけない。完全に存在しない無になってしまうんだよ」
「え? それじゃどうして? そんなことをしてまで僕の体に? あの子は恵人はそのことを知っているのですか?」
「ああ、それを承知で、君の体に入った」
返答しながら、恵人の後ろ姿を見つめて顔を曇らせた。
他人の体に乗り移れるのは、良いことづくしではない。
恵吾を守るために生きていく代償として、霊として存在する道を、恵人は捨てたのだ。
「隼人」
沢口は、姓ではなく名前を呼んだ。
「179日が経つと、恵人は、君の体から抜け出せなくなる。そして死んだら、もう、この霊界には戻れない。霊としても存在できなくなる。当然、天国にもいけない。完全に存在しない無になってしまうんだよ」
「え? それじゃどうして? そんなことをしてまで僕の体に? あの子は恵人はそのことを知っているのですか?」
「ああ、それを承知で、君の体に入った」
返答しながら、恵人の後ろ姿を見つめて顔を曇らせた。
他人の体に乗り移れるのは、良いことづくしではない。
恵吾を守るために生きていく代償として、霊として存在する道を、恵人は捨てたのだ。