第56話 沢口の編9

文字数 388文字

「20歳です。もうすぐ21歳になります。大学生です」
「身長と体重はどのぐらいある?」
 目の前に浮いているエジプトのミイラのような痩せ細った霊体。いやそれは言い過ぎだな。ベッドに細く横たわる肉体の寸法をファッションデザイナーか、仕立屋のごとく照らし合わせる眼をやりながら訊き返した。
「えーと、170センチぐらいだと思います。体重は長いこと測っていないので」
「そうか。ま、贅沢はい えんか」
 背丈は自分より少し低いが、ガリガリにやせ細っているせいか、見た目はもっと小さく見える貧弱な体を改めて見つめ直し、少し失望した。
 が何とかなるだろう、という顔で口を吐いて、最初に探し出した30代の肥満男のことを思い出した。
 煙草のニコチン漬けの体内から、ぷんぷんと染み出す危険薬物と思われる酷い悪臭と、DNAに流れる性根の悪さに、再生する価値なし、と即座に乗船を却下した。

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