別の男が欲しい(1)

文字数 424文字

 武田くんの方が先にその珈琲店に着いていた。スーツを着た武田くんが落ち着かなげに座っていた。私は向かいに座ってブレンドを注文した。

 武田くんは黙ってアイスコーヒーを飲んでいた。話があると言っていたのに何かを話し出すような気配はない。気詰まりなので私から話しかけた。

「今日、正美のとこ行く?行くなら話はその時でもいいけど。」

「あんまり行きたくないけどな。でも行くよ。」

 武田くんからやっと返事らしい返事が返ってきた。

「じゃ行こうよ。」

 席を立とうとした私に待てと言うように武田くんが口を開いた。

「あのさ、今度出かけない?」

「どこへ?」

「それはまだ決めてないけど。見たい映画とかない?」

「映画ねえ?急に言われてもわかんないな。」

「じゃあ考えといて。別に映画じゃなくてもいいけど。」

「うん。考えとく。話ってこのこと?」

「そう。」

「なんだ。何だろうとかって考えちゃったじゃない。」

 拍子抜けした。

「じゃあ遅くなるから行こうよ。」

 そう言って私は席を立った。
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