その夜（３）

「旦那さんなんだって？」

　武田くんが私の顔と切れた携帯を交互に見ていた。私の頭の中で雨宮の言葉が収まる所を探してぐるぐるとまわっていた。

「どうしたの？」

　私が落としそうになった携帯を武田くんがおさえて私の手に戻した。

「大丈夫？」

　考えることを拒否した頭に言葉だけが残って回っている。

「悟が携帯を忘れて･･･寝てたって･･･今日泊めるって･･･」

「え？何？」

「雨宮の家に」

「え？わかんない。何？」

「武田くん」

　武田くんの顔をやっと見上げた。

「私･･･」

　顔が大きく歪むのがわかった。武田くんが何も言わずに私を両腕の中に抱いた。

「ゆっくり大きく深呼吸して」

　大きく息を吸うとしゃくりあげそうになる。ふぅっと大きく息を吐く度に武田くんがゆっくり背中をさすってくれた。

「大丈夫だよ」

「泣かないで」

「泣いてもいいよ」

　しばらくそうして武田くんの腕の中にいたら呼吸のリズムが整ってきた。

「大丈夫？」

「うん」

　武田くんがぎゅうっと私を抱きしめた。

「俺、もう止まれないよ。止まらなくていいよね？」

「うん」