私にはことわりも無しに(4)

文字数 816文字

 翌朝、リビングで寝ている支店長を起こさないようにそっと寝室で着替え、キッチンでパンをかじってコーヒーを飲んだ。

 洗面所で簡単にメイクをして髪を整えた。家を出る時、悟も支店長もまだ寝ていた。私はちっとも寝た気もしなかったし疲れ切っていた。

 職場に着くなり、パートの中年女性を見つけては愚痴を言った。

「あらぁ、災難ね。そんなの断っちゃえば良かったのに。」

「そうですよね?急に来て。」

「あら?結婚してたっけ?」

「してないです」

「だったら尚更よ、大変だったわね」

 その通りだと思った。悟と話せてないからわからないが、どうやら私と悟は結婚していることになっているらしい。酷い話だ。

 悟は私と結婚してるつもりなのか?3年とか言ってたけど。

 悟からは何の連絡も入ってなかった。期待はしていなかったけれど、このまま話も出来ないのはあまりじゃないかと思った。

「話がしたいんだけど、今日少し早く帰れない?」

 メールしてみた。が、予想通り返事は返ってこなかった。

 午後の休憩に武田くんが迎えに来た。

 私は携帯をチェックしていた。悟から返事が来ていた。

「無理」一言。私が早く帰れないかと聞いたことについての返事が「無理」のたった一言。

 予想していた事とはいえ傷ついた。泣きたかった。

「鈴木さん?」

 探るように武田くんが聞いてきた。

「違う」

「何かあったの?」

「なんでもない」

 大きく息をはいた。しばらく沈黙が続いた。

「そろそろ戻らなきゃね」

「うん。行くか」

 2人とも立ち上がり階段に向かおうとしたところで正美が入ってきた。

「おつかれ」

 お互いにそう言い合った。が、それ以上会話が続かない。

「行くよ」

 武田くんが私に言った。

「またね」

 正美とお互い言い合って別れた。

「今晩一緒にメシ食おう。どこかで。」
 
「正美は?」

「誘わなくたっていいだろ?俺と2人じゃダメなの?」

「そんなことないけど」

「じゃあ外で待ってて」

「わかった」

 武田くんと別れて事務所に戻った。








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