結婚するの？（１）

「どうしたの？」

「別にどうもしないよ」

「さっき泣いてたじゃん」

「泣いてはいないよ」

「俺には話せないって？」

「そうじゃないけど･･･」

「教えてよ。気になるじゃん」

「ほんとは悟と話してなきゃいけないんだよね、話し合いしないと。」

　私の方に身を寄せてきていた武田くんがスっと離れて前を向いてグラスの水を飲んだ。少し傷つけてしまったのかもしれない。

「私、結婚してることになってるみたい」

「え？」

「会社の人にはそう言ってるみたい」

　武田くんに昨晩のことを全部話した。

「ちゃんと話をしたいから今夜早く帰れないかってメールしたんだけど無理だって」

「いや、話さないとだろ」

「無理って一言」

「ひどいな」

　武田くんは怒ったような、ショックを受けたような表情で押し黙ってしまった。彼には話が重すぎたのかもしれない。

　無言が重すぎて私の方が武田くんを慰めなきゃいけないような気がしてきた。

「大丈夫。ちゃんと話すから。近いうち」

　武田くんは黙ったままだった。ぬるくなったビールの残りを飲んだ。嫌な苦さしかない。

「出よう」

　会計をして店を出た。