部外者(6)

文字数 640文字

 周りに人の気配が無くなったのを確認してからそっとトイレを出た。遠くから人々の談笑する声や子供の歓声が聞こえていた。

 私の気持ちとはあまりにかけ離れた平和な情景。どこを眺めても私の居場所なんか無く私だけがその風景にとけ込めない異端者の様な気がした。

 とても戻れない
 あの場所には戻れない

 悟を知っているつもりでいた。私たちの関係がずっと行き詰まっていると感じていたにしろ、お互いの事を知り尽くしていると思っていた。

 でも悟をこんなに遠く感じたのは初めてだった。赤の他人よりずっと遠く感じた。

 近くのベンチに座って景色を眺めていた。立ち上がったところでどこを目指して歩けばいいのかわからなかった。一歩も歩けなかった。

 どれくらいそこにそうして座っていたのかわからない。悟から電話がかかってきた。
 出たくなかった。誰とも話したくなかった。長いコールの後で電話がきれた。

 助けて。助けて誰か。助けて・・・助けて・・・

 心で叫んでいた。

 10分程してもう一度電話がかかってきた。

「どこ?」

「トイレ」

「ずっといなかったじゃないか」

「うん」

「何してんだよ」

「・・・」

「みんな気にするじゃないか。急にいなくなって」

「ごめんなさい。ちょっと気分悪い」

「お前が酔うほど飲んでないだろ?」

「帰りたい」

「そんなこと言われても。子供でもあるまいしわがまま言うなよ」

「・・・」

「帰れないよ。雨宮送ってかなきゃいけないし」

「どうして?どうして悟が?なんで悟があの人送らなきゃいけないの?他の人でいいじゃない」





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