何も変わらない日々(3)

文字数 530文字

「行こう」

 武田くんが呼びに来たので受付を交代してもらい休憩に出た。

「忙しそうだね」

「うん、今日はモーレツに忙しい」

  それでも武田くんは靴底にバネがついているみたいに軽快に階段をのぼっていく。

「ほらー、手」

 武田くんが私の手を引っ張ってもっと早く上がれと急かす。

「待ってよ、ゆっくり」

 食堂の人のいない場所を選んで座った。私はホットコーヒーを飲み、武田くんはコーラを飲んでいた。

「あー疲れた」

「お疲れ様」

「正美に聞いた?」

「何を?」

「今晩、正美のとこに行こうと思って。誘ってくれたから」

「聞いてない」

「武田くんも来る?」

「行くならね」

 そう言って私を指さす。

「あのね」

「ん?」

「私、結婚した」

「え?」

 武田くんはギョッとしたような顔で絶句した。いつまで経っても次の言葉が出てこない。

「正美がお祝いをしてくれるって言うの」

 もう休憩が終わるまで何も話してくれないのかなと思うほど長い沈黙の後で武田くんがやっと口を開いた。

「出かけられるの?今夜」

「うん。遅くなるって」

「結婚しても夜とか出かけられるの?」

「多分。今までと変わらないと思う」

「そうか・・・」

 この時はその意味がよくわかっていなかった。何も変わらない日々の絶望感にも全然気づいていなかったように思う。




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