不満の沈澱(1)

文字数 582文字

「ただいま。」

 口から出た言葉が暗がりに飲み込まれた。いつものように誰もいない部屋。悟はまだ帰っていない。

 自分は寂しがり屋だと思ってなかった。もっとも同棲を始める前は家族といたから1人で暮らしたことは無い。

 悟とは2人で暮らしているのに寂しかった。寂しいというよりむしろ虚しさ、空虚感に近い。

 恋愛の初めは良かったが同棲を初めてすぐから疑問が始まった。

 最近は一緒にいられない、構ってくれない、つまらない、寂しい、そんな感情が原因で悟と喧嘩をすることもほとんどなくなった。

 平気になったのではない。諦めたのだ。以前はそんな喧嘩ばかりしていた。

「私は悟の何なの?」

「私たちどうして一緒にいるの?」

「寂しい。」

「もっと一緒にいたい。」

「どうして構ってくれないの?」

「私のこと好きじゃないの?」

 喧嘩の度にそんな気持ちを悟にぶつけてきた。そのたびに返ってくるのは

「忙しいんだから仕方ないだろ。」

 そう言われると何も言えなくなった。頭で理解しようとしても涙が止まらなくなると悟は私を抱いた。

 それは一時的に痛みを感じさせなくする鎮痛剤のように私の感覚を麻痺させた。痺れた頭のどこかで執拗に響き続ける思い。

「このままでいいの?幸せじゃないでしょ?」

 そんな話の度に悟は面倒な話から逃げるようにセックスに逃げた。そして私の不安、不満はいつも私の中で澱のように溜まっていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み