気晴らし(1)

文字数 529文字

「静かに少しずつ死んでいくような気がするの。少しずつ固まっていくみたいに。」

 言い終わるとグラスを口に運んだ。鈴木さんは黙ってグラスを手の中で持て遊んでいた。

「これ美味しい。」

 この店のオリジナルだというカクテルをもう一口飲んでから言った。

 爽やかな香りが広がった後、喉がカッと熱くなる。舌にピリッとスパイシーでビターなテイストが残るのがなんともいえず味わいがある。

「いい店だろ?この辺にしては。」

 鈴木さんが言った。

「うん。知らなかった。マスターがイケメンなのもいい。」

 カウンターの内側でマスターが

「ありがとうございます。」

 と控えめに笑った。押し付けがましくない、控えめでいてにこやかな感じがまたいい。私はマスターににっこり笑いかけた。

「そのイケメン好きが災いしてんじゃないの?男見る目ある?いい男逃してるんじゃないの?すぐそばにいるのに。」

 鈴木が言った。

「そんなこと言うけど鈴木さんだってそこそこイケメンじゃなかったらデートなんてしないもん、私。」

「そこそこって失礼な!俺は文句なしのいい男だろ?」

「はいはい。自信過剰じゃなければもっといい男ですけどね。」

 鈴木さんも悟ほど万人受けしないにしろ外見は悪くない。悟ほど甘くもなくもっと男っぽい感じだ。
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