別の男が欲しい(2)

文字数 593文字

 珈琲店を出ようとしている私の背中に向かって後ろからついてきた武田くんが言った。

「鈴木さんのこと好きなの?」

 私は振り返って武田くんの顔を見た。武田くんも私の顔をじっと見ていた。珈琲店のドアに手をかけながら振り返って視線をぶつけ合っている状態だった。

 急に何と答えていいかわからなかった。

 中途半端に手をかけていたドアに向き直って店の外に出た。武田くんも出てきた。

「鈴木さんのことは正直自分でもわからない。好きとまでは思ってないけど惹かれてはいる。」

 私は自分の気持ちを分析するように言った。実際言った通りだった。以前と違い鈴木さんに対して男を感じるようになっていた。

 あの日の出来事以来、鈴木さんを男として急に意識するようになった。

 自分の中にメスの本能が膨らんでいくのを感じていた。

 悟と同棲しているのに、悟の中に男を感じていないのは私の問題だった。悟に寂しさをぶつけてきたけれど、私自身が悟では満たされないのに気づいた。

 私の中のメスは別の男を欲しがっていた。私の欲求不満が別の男を求めていた。

 ただ誰か悟以外の男が欲しいのか、鈴木さんが欲しいのかよくわからなかった。

 武田くんはまた黙りこくって自転車のところまで移動した。何だか怒っているようでもあり傷ついているようでもあった。

「寮に戻って着替えてから迎えに行くから。」

 言い捨てるように言って私の方は見もせずに行ってしまった。
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