彼の気持ち(1)

文字数 341文字

 出勤して事務所に入る前に検収所に行ってみたが武田くんはいなかった。

 3階のバックルームで軍手をして作業をしている武田くんを見つけた。以前なら絶対に話しかけることなど出来そうもない空気。

 武田くんは今日もそんな空気を発していた。それでも話しかけるために探していたのだ。近くに人がいないことを確認してから近づいた。

 武田くんは驚いたらしく、そのせいで無防備に見えた。身構えて欲しくなかったから好都合だった。

「おはよう。」

 努めて明るく言った。

「おはよう。」

 戸惑ったような様子で武田くんは言った。

「何?」

「午後の休憩一緒に行こう。迎えに来て。」

「うん。」

「話したいの。」

 私は立ち去る前にそう言った。武田くんは黙って私の顔を見ていた。私は軽く手を振ってから後ろを向いて階段に向かった。
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