終節「満月 3」

文字数 1,466文字

ん?  なに?

手を止めて笑顔でこちらを見る夢月くん。

でも何となく、その空気感から真剣なものを感じ取って……。


私も一旦手を止めて、彼の視線をまっすぐ受けました。

…………。
……どうしたの、急に。
私もまた、笑顔で彼の言葉に応えます。

まだ話の内容を聞いたわけではないけれど、私と彼は今、同じ気持ちでいることが伝わってきたからです。

ヨウタの治療が終わってからずっと考えてたんだ。 

もし、そらが夢うさぎに来てくれてなかったら……そらがいないまま、ヨウタがこの店に来ていたら……

俺は……どうなっていたんだろうって。

…………。

真剣に、それでいて穏やかに、

彼の言葉を受け止めます。


私の綻ぶ口元を見て、夢月くんも安心して私に語り掛けてくれているのが分かります。

きっと何もできなかったと思う。

後悔したまま誰も助けられずに……ここにはいられなくなってたと思う。

俺がこうしていられるのは……

全部そらのおかげだ。

本当にありがとう、そら。

…………。


無理せず、飾らず、偽りなく……

彼が私に向けてくれる心からの笑顔。


ずっと私は……こうしてくれる彼の姿を、

夢想していたような気がします。

…………。

彼からの気持ちは本当に嬉しい。

何よりも強くそう思います。


でも……だからこそ私は、

同じ気持ちを彼に返したい。

私が夢月くんの力になれたのも……最初に夢月くんが私の力になってくれたから……。

何もできなかった私に前を向く勇気をくれたのは、あの時の夢月くんだったの。

そばにあなたがいてくれたから、

私は前を向くことができた。


そばであなたが頑張ってくれたから、

私はあなたを励ますことができた。


そんなあなたが私を認めてくれるのなら、

私はもっとあなたを認めてあげたい。

だから、今のあなたがあなたでいられてるのは、全部あなた自身の気持ちが動かした結果だよ。

夢の世界では届けられなかった……

ううん、届かなかった私の気持ち。


今ここで、現実で。

私は、あなたに直接届けます。

そら……。

あの時、私に寄り添ってくれてありがとう。

誰よりも優しいあなたに、誰よりも救われた。

そんな1人の人間として。


私は、早乙女夢月くんの味方で在り続けたい。

そんな願いを込めて、精一杯の気持ちを伝えました。

……こちらこそ。

いつも俺の隣りにいてくれてありがとう、そら。
そんな私の気持ちを全て受け入れるように、

夢月くんは堂々と力強く応えてくれました。

まだまだ不甲斐ない俺だけど……

一緒に頑張ってくれると嬉しいな。

もちろんだよ!

あなたと一緒に分かち合うことができて、

あなたと一緒に乗り越えることができて、


本当に、良かった。

うん!!

……今回のことで私は、夢想師として

働く本当の過酷さを知りました。


場合によっては、自分の命と人の命を天秤にかけるような選択を迫られることさえあることも……。

飛び込みだ……!?

吏星を呼んでこなくちゃ!

そら、お願い!

うん……!

でも……

私はそれを投げ出すことは決してしません。


どんな困難があろうとも、必ず最良の

結果を導き出すことを誓います。

すみません、招待状をお持ちですか?

……はい、確認しました。

とても素敵で優しくて頼りになる、

大好きな人たちと一緒に……!

ここはたくさんの優しさで満たされた

"眠りの園 夢うさぎ亭"。


私たちは、悩める人の心に寄り添い続けます。


今までも……そして、これからも。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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