6節「夢月、考える 3」

文字数 1,845文字

(私の思惑とは全く違いますが……)

結果的に話は主題に戻ってくれたようです。

夢想師はそれぞれ得意技――と呼ぶべき一連の流れを持っていることは多い。
天崎が言ってくれた通りだが、俺はまず檻のようなもので対象を囲ってから攻撃するやり方を取っている。
夢魔の中には特殊な性質を持ったものもいるからな。その確認と確実な駆除を兼ねて、このやり方を徹底しているんだ。
吏星さんの治療を受けた時のことを思い出します。


私に憑いた夢魔は1つの個体が心内で

複数に分かれて意思を持つタイプ。


それを知ることができたのは、彼がその分体の1つを

駆除する前に捕らえることができたからでした。

僕は吏星みたいにまだるっこしいのは嫌いだからね。種類や大きさ問わず一網打尽ってことが多いかな。
対して、蓮夜さんの治療は豪快で……。


集まった全ての分体と本体を確認することなく、一度の攻撃で全て消し去ってしまったのは記憶に鮮明です……。

そ、そんなことできるんだ……。
まぁ……すごかったよ……。
すごかったんだ……。
うん……。

あまりのことに、夢の世界で気を失ってしまったくらいですから……。

ちなみに技名はね――
言わなくて良いぞ。

いつまで引っ張るつもりだ。

紫吹はこれでも、夢魔の駆除についてはスペシャリストの域にいる夢想師だ。
今、話を聞くのはやめておいた方が良い。自信を無くすだけだろう。
いやそんなに私にアピールされてもですね……?
うーん、何となくイメージは湧いたけど……。結局、俺は今から何をしたら良いんだ……?
最初に言った通りだが、俺達が授けられるのはヒントだけ。どうしたら良いかは、お前が自分で気付いていかなければならんことだ。
うーん……じゃあ吏星と蓮夜はどうやってできるようになったんだよ。それくらい教えてくれたって良いだろ?
夢想師の治療は見て感じて学ぶもの……。


でも心の中で行われていることだから、

実際の治療を覗き見ることはできない……。


2人に認められなければ、実践することもままならない……。

……俺の場合、どうしてできるようになったか自分にも分からん。
ただ……やらざるを得なかったからできるようになっただけだ。
???
蓮夜はどうなんだ?

昔のことすぎて忘れちゃったな。

――あ、でももしかしたら最初からできてたかもしれない。
そしてこの曖昧すぎるヒント……。

これはなかなか……どうして……。

えーどういうことだよ!

そんなんじゃ何も分からないよ!

 2人ともいつも言ってること難しすぎるんだよな~……!
……夢月ちゃんの場合やっぱり、人を想うことから考えていくのが良いと思う。
ここで口を開いたのは、蓮夜さんです。

普段はあまり直接的なアドバイスはしないのですが……。

想うこと?
うん。

心のパイプを繋ぐのが上手いということは……それだけ相手の心をしっかり掴んでいるってことさ。

なのに空間の現出が上手く行かないのは、その気持ちのコントロールが上手くできていないってことだと思う。
コントロール……
空間の現出は、基本的に患者の心の在り方を理解して固める作業なんだ。
夢月ちゃんはその"理解"の部分がまだまだ甘いってことかもしれないね。
さっきよりは分かりやすい気がしますが……。

それも比較的に見てというところ……。

う~ん?

だ、だから難しいってば~!

今の状態では……

夢月くんを余計混乱させるだけな気がします……。

相手の本心や本当に望んでいることを考える……といったところだな。
実際、お前は少し前のめりすぎる節がある。力の抜き方を覚えた方がいい。
……もう少し分かりやすく!
大人になれ。
余計分かんないよ!?
吏星さんは物事を端的に一言で言い換えてはくれますが、日頃から具体的なことは伏せているように感じます。それは考え方と言うか……彼の癖のようなものだと私は感じています。
フフッ、まぁ空間の現出に関しては吏星が最高のお手本になるからね。
夢月ちゃんが思う、吏星の良いところを参考にしてみたら良いんじゃない?
な、なるほどなるほど……!
そういう時、いつも話が破綻する直前で

一言差し込んでくるのが蓮夜さんです。

今の夢月くんは迷走してしまっていますが……

何と言うか、蓮夜さんはいつも"分かっている"ように思うのです。

……蓮夜さんって意外とアドバイス上手ですよね。
そう?

吏星と比べてそう見えるだけじゃない?

本当はもっと具体的なことが言えるのに、

彼はあえてそれを避けている……。


そう感じてなりません……。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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