終節「眠りの園 夢うさぎ亭へようこそ! 1」

文字数 1,383文字

…………。
夢うさぎで治療を受けてから早1ヶ月。

私は再び夢うさぎの前に立っています。


用があるのは、

カフェ夢うさぎではなく、夢うさぎ亭……。


あの日からずっと考えていたことを伝えに来たんです。

……よしっ!
深呼吸して……落ち着いて……。


あの日とは違う面持ちで、

あの日と同じように扉を開きます。

いらっしゃいませ。

閉店時間は……

あぁ! 君は!

こんにちは!
おかげさまで、すごく良いよ。
そうか、良かった。


へへっ、嬉しいな。

またこうやってそらさんに会えて。

――あ、名前覚えていてくれた。

それだけで少し嬉しくなる自分がいました。


夢月くんとこうして顔を合わせるのもあの日以来! 

元気そうで良かった!

吏星と蓮夜も呼んでくるよ!

きっと喜ぶと思うからさ!

うん!
そうこなくっちゃ!

おーいり――― 

騒がしいぞ早乙女。
呼ばれるまでもないってね。
へへっ、ごめん。
……久しいな、天崎そら。

その分だと、問題はないようだな。

はい!

フッ、良い顔をするようになった。

また会えて嬉しいよ、そらさん。
皆君のこと、すっごく気にしてたんだぜ。
紫吹さんはこちらから声をかける間もなく、

私のそばに来て耳打ちしてきました。

……ねぇ。

それよりあの日言ったこと覚えてる?

…………!
忘れるわけないじゃないですかあんなこと……!


でも、夢月くんと宝生さんの前では何か言うことも

できないし……紫吹さんも相変わらずです!

(……へぇ)
紫吹、いい加減にしろ。
なんでさ?

吏星は何にも知らないでしょ?

……!

まさか盗み見てたとか?

そんなわけあるか!

お前のしたことなど大方予想がつくだけだ!

ケンカするほど……とはよく言いますが。


この2人の場合、

きっと本当にそうなのだろうと、思います。

こんな時だからこそだよ。

ねー吏星。

どういうことだ!

フフッ!

そうなのだと……思うのですが……多分……
相変わらず夢うさぎ亭は

こんな感じでやってるよ。

フフッ!

でも楽しそう。

……そらさんはどう?

何かやりたいこととか見つかった?

……えっと……
そう、今日私が彼らに伝えに来たのはその話。


自分から言い出すつもりだったので、

夢月くんから急に振られて少しビックリして、

言いよどんでしまいました。

……焦らなくても良いよ。

落ち着いてくればきっとすぐに――

ううん。

そうじゃないの。

……え?
えっと…………
言わなきゃ……変わらなきゃ……。
今までの自分と決別しなくちゃ……。


その気持ちが前に出すぎて言葉がまとまらず、

なかなか次の言葉が続きません。

……遠慮しないでいいよ。

話してみて。

ほら、この前言っただろ?

俺達は一番の君の味方だって。

……私――
3人からの温かい言葉。

それを聞いた時、スッと胸が軽くなりました。


それこそが、今私の胸の内にある希望をくれた彼らの姿

その物だったからです。

このお店で働きたいんです!

3人のお手伝いがしたいんです!

お願いします! 私を……夢うさぎの仲間に入れてください! お願いします!

え? えぇ!?
……そういうこと。
……それが今の

お前の「夢」というわけか。

…………はい。

やっぱり……駄目……ですか?

……どうする、吏星?
…………。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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