5節「君のこと、本気にさせてみたい 3」
文字数 1,857文字
徐々に痛みが全身に拡がって行きます。
今まで感じたことがないような鈍く拡がる痛みは、
ドクンドクンと心臓の辺りに影を落として行きました。
これが心とリンクした身体の痛み……。
一気に身体から力が抜け、意識が朦朧とし始めました。
このまま夢の世界に行くのだと……思います……。
先ほどと同じような光景でした。
……でも心なしか、宝生さんの時より
全身の感覚が鈍い気がします。
宝生さんが捕まえていた夢魔は身体も小さく、
私には力も弱そうに見えました。
でもその夢魔の討伐に改めて出てきたのは
戦いが得意らしい紫吹さん。
そして"親玉"という言葉……。
想像しているより、何か恐ろしいものが出てきてしまう予感がします……。
そんなの持ってるわけがない。
だって私が紫吹さん――いえ、夢うさぎの3人を通して見ていたのは、自分自身の姿だったから。
何も持っていない自分を、人に合わせることでしか生きられない自分を受け入れられなくて……。
ただ"皆に好かれる存在"に自分もなれたらと、ありもしない妄想に浸っていただけだったんです。
そんな弱い自分への負の感情が、紫吹さんの言葉をキッカケに、止めようもなく私の心を覆いました。
……私が正常だったら、嫌がったのかもしれません。
でも……今は頭も身体も漫然としていて、何故だかこの状況を良しとしている自分がいるのを感じていました。
"どういうこと?"なんて聞くのは野暮、なんでしょう。
現実とは違う夢の世界。
そこにいる今の私は、私であって私じゃない。
でも……"こんな私"がいても良い。
現実とは違う可能性を、紫吹さんは見せてくれている。
私の心がそう言いました。
しかし……
こんな時、どう返せば良いのか……
その術を"私"は一切持っていなかったのです。
だから紫吹さんの誘いに対して、
私は態度も言葉も何も返すことができませんでした。
けたたましい鳴き声と共に、私達の眼の前に
無数の黒い塊が大挙して出現し始めたのは。