4節「挑戦 2」

文字数 1,376文字

夢魔に憑かれた者の情緒の不安定さを考えれば、

子供は更に御し辛い状態だと考えるのが自然だ。


それを深い眠りに就かせ、持続させるとなると、

その難易度は計り知れないと言って良い。

……まったく。

夢魔に憑かれた子供を寝かしつけるなど、知識でどうにかできる問題じゃないというのに。

それをあいつは、いとも簡単に成し遂げた……と言うわけか……まったく……。
――さぁ、ここからは俺の仕事だ。

果たして上手く行くかどうか……。

夢想師は眠った患者のそばで仮眠を取ることで、

患者と心を通わせ、"夢入り"する。


その心と心の間を繋ぐのが第一の条件。

相手と打ち解け、心を開いてもらうことで

心内に"パイプ"を形成する。

……よし。
早乙女がいかに才覚があるとは言え、

相手は年端も行かない子供だ。


夢空間の完璧な現出が可能とは限らないはず。

用心せねばな……。

――――――――
椅子に座ったまま患者のそばで眠りに就き、

心の共鳴状態を作り出す……。


ここからが夢想師の仕事……"夢入り"の始まり……。

夢想師の心と患者の心……。

それを繋ぐ架け橋がこの心の"パイプ"……。


早乙女が患者と打ち解けたからこそ形成された、

あいつの夢想師としての仕事の成果……。

……実体も感覚もなく、

ただ自身の存在だけが認識できる。


そんな不確かな状態に浸れる唯一の場所。

何度体験しても、不思議なものだ。

……ヨウタ少年との心のパイプは、

問題なく繋がっているようだな。

行動に支障もない。

完璧……と言って良いだろう。


ここに来る前の心配は、杞憂だったというわけか。

この具合なら夢空間を現出する阻害要因はほぼないはず……。

人と打ち解ける天才、か。


……羨ましい限りだ。

あとは不安定な子供の心を

固めることができるかどうか。


……やってみせよう。

……早乙女の努力に報いるためにも。

…………行くぞ。
パイプを繋いだ患者の心から夢のイメージを引き出し、それを練り上げて"夢空間"を構築する。


そこに降り立つことができれば、夢想師は実体を持って行動し、夢魔を直接駆除できる……!。

―――――――!!
馬鹿な……!

拒絶された……!?

空間の構築に失敗したわけではない……!

夢のイメージを引き出す過程を、止められた……!

…………!
今のアクセスで、患者の心が乱れ動いて……!

このままではパイプごと俺の心も……!

ぐッ!!
ギリギリでパイプからは脱出できたか……。

間一髪……最悪の事態は免れた……。


とは言え――

……クソ……まずいなこれは。
……これは想像していた以上に、厄介なことになりそうだ。
……?

吏星さんが治療室から戻ってきました。


いつも通りの治療なら、

今はまだ夢の世界にいる頃合いなはず……。

…………。

よく見ると、少し苦い顔をしています。

何かあったんでしょうか……?

あれ、どうしたんだ?
すまない。

ヨウタ少年の治療は想像より

難航しそうだ。

子供への施術はデリケートなものでな。


万全を期すため、

日を改めてもらっても良いだろうか?

え……?
分かりました。

ではまた後日伺います。

申し訳ない。
良いんです。

手の施しようがあると分かっただけでも今日は……

ヨウタにはもう少し苦しい思いをさせてしまいますけど、絶対に良くなる方法で治してあげてください。
了解した。

こちらもべストを尽くす。

…………。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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