1節「安らかな夢の世界へ ~悪夢の治療をする人達~ 1」

文字数 1,417文字

……夢を見る。

毎日毎日、ずっと同じような夢。

辛く、悲しく、恐ろしい……悪夢を。

私――天崎 そらはその悪夢の原因を探すため、病院で教えられたお店の門を叩きました。


そこは見知ったカフェ 夢うさぎ。

私もお昼によく訪れる、この地域の人気店です。

…………。
夜間の今は閉店中のはず……。
一体、私の悪夢とこのお店に何の関係があるんでしょうか……。
……いらっしゃいませ。
あれ、君は……。

……閉店時間はもう過ぎてるよ。また明日来てくれないか?

えっと、その……
いつもいるウェイターさんの顔が目に入りました。

病院で貰った書類を渡さなきゃ……。

ん? どうしたんだ?
…………。
……もしかして君、裏に用があって来たのか?
……はい。
そう、なんだ。
……確かに、招待を確認。

うん、君を”裏”のお客と認めるよ。

――おーい、吏星、蓮夜ー!

お客さんだー!

赤い髪の男の子(早乙女さんだったかな……?)が声をかけると、2人の男性が奥から出てきました。

この2人もいつもカフェでウェイターをやっている人達です。

へぇ、飛び込みなんて珍しい。残念、今日のこっちは、このままオフかと思ってたのに。

えー、暇してるよりは良いだろ?

早乙女、俺たちの仕事があるということは、それだけ苦しむ者が多いことの裏返し。良いことではないぞ。

あーはいはい分かりましたよーだ。吏星はいちいちうるさいなぁ。

おい、俺はあくまで――

まぁそう言うなよ、吏星。

そんなこと夢月ちゃんだって分かってるって。

それより今は、これからどんな子の相手ができるのかの方が大事でしょ。
銀髪の好青年――紫吹さんは、軽快な動きで座っていた椅子から立ち上がりました。


すごい服装をしているのに、慣れた素振りで美しく動きます。私だったら絶対に踏んだり巻き付けたりしてしまいそう……。

…………!
あれ?

ん? お前は確か……。

"表"の常連の……?

天崎……天崎 そら……です……。
覚えられている……。

その事実が、ほんの少しだけばつの悪さを私の胸に覚えさせました。ひっそりと通っているつもりだったんですが……。

あぁ、珍しいだろ?

こういうこともあるんだな!

おっと、自己紹介が遅れたね。

俺は早乙女!

って表の名札に書いてあるからそれは知ってるか。

フルネームは早乙女 夢月っていうんだ。

よろしくな。

よ、よろしくお願いします……。

俺は宝生。宝生 吏星だ。

同じく表でウェイターをやっている。客の顔を覚えるのは苦手だが、お前のことは知っているぞ。いつも来てくれて感謝している。

だが、あまり騒がしくはしすぎるな。
は、はい……!
まったく吏星ったら。

そういうのはなしで行こうよ。

ごめんね。……そうだな、ちゃんと話すのは初めてだし、やっぱり初めまして、と言っておこうかな。

僕は紫吹 蓮夜

知っての通り、この店一番の人気ウェイターさ。今日は君のような可愛い子が相手で、嬉しいよ。

!!
お店で見知った3人ではあるけれど……

何故だかいつもと全然違う雰囲気です……。

どういうことなんでしょうか……。

――今宵を照らす月明かりは
幾星霜の迷いを払い

清らかな夜明けへ貴女を導く――

夢うさぎ……亭……?
夢うさぎ亭?

カフェ夢うさぎではなくて……?


夕方にはCLOSEDするこのお店で、

夜に行われている"何か"……。


私は、大変なところに来てしまったのかもしれません……。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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