2節「ずっと君の力になりたい 2」

文字数 1,801文字

……そらさんって、楽しそうに友達と話してる日もあれば、1人で本を読んでる日もあるじゃん?


いつも自由で、悩みとか全然なさそうな子だなって思ってた。

けど、夢魔はそんな君を狙って取り憑いた。

…………。
夢月くんがそう思っていたのは当たり前。

だって、私は周りからそう見えるように、ずっと努力してきたんですから。


周りに溶け込めるように。

周りから浮かないように。


それだけを考えて……精一杯毎日を過ごしていました。

夢魔は取り憑く相手をちゃんと選んでる。


最初から苦痛をたくさん持っている人を狙った方が楽だからな。あいつらにはそれを嗅ぎ分ける力もあるみたいなんだ。

つまり、夢魔に取り憑かれた君は、それだけ暗い何かを抱え込んでいるってことになる。
それは……その……
……バレていたわけじゃなかったみたい。

でも、予期せぬ形で彼にそれが伝わり、傷付ける結果になってしまった。


こういう時、私はどうすれば良いんでしょうか……。

……ごめんな、こんな形で君の心に触れることになって。


けど、俺さっき君の顔を見ていて思っちゃったんだ。

あぁ、こんなにも……辛そうな顔をする人だったんだって。


いつも近くにいたのに、なんでこの顔をしている君を、見つけてあげれらなかったんだろうって……。

そんなこと……
貴方が気にすることじゃありません……。

貴方が私のことで傷つく必要なんてありません……。


何だかそういう言い方はとても薄情な気がして、私にはできませんでした。


それくらい夢月くんは、まっすぐに私のことを考えて、心配してくれているように見えたからです。

無理してたんだな……。

ずっとずっと、一人で我慢して、誰かのためにって頑張ってきたんだな。

……良いんだぜ?

もっと他の人に甘えたってさ。君のこと助けてくれる人は周りにたくさんいるって。

……ありがとう。

でも良いの、私は。


これ以外の自分で生きて行ける、自信がないから……。

だったら……

俺、もう放っておけねぇよ。

こんなに苦しんでる君を知っちゃったんだから。

夢月くん……。
どうして……

どうしてこの人は、こんなにも他人に気持ちを向けられるんでしょう。


まともに喋ったのだって今日が初めての私に、ここまで一生懸命になれるなんて。なってくれるなんて。


本当に素敵な人。

私なんかとは全然違います……。

…………。
……俺さ、本当は夢想師として、まだ半人前なんだよな。
え……?
ごめん、今言うべきことじゃなかったかな。

……夢想師は夢の中で夢魔を退治するのが仕事だけど、俺はまだ一度も夢魔と向き合ったことがないんだ。

だから本当は夢想師って名乗るのも違う気がしてて。

患者の私にこんな話……

本来ならすべきではないもの、でしょう……。


でも今の私は……安心してしまったのです。

"こんな明るい人でも悩みがある"という事実に。


それが本当は良くないことだと分かっていても、他人に救いを求めてしまうくらい、私の心は弱っていました。


夢月くんはその私の気持ちを、汲み取ってくれたのかもしれません。

そう、なんだ……。
俺にできるのは、こうやって君と話をして、君の気持ちを落ち着けることくらい。


良い夢を見てもらうところまでが今の俺の仕事。あとは吏星と蓮夜にバトンタッチって感じ。

…………。

だから吏星は俺にばっかいつも口うるさいし、蓮夜は対等に見てくれてないし、なんかもう表でウェイターだけやってた方が気が楽かもって思うこともあって。

毎日、いつになったら一人前になれるんだろうって不安でいっぱいなんだ。

…………。
この笑顔は、私もよく知っている笑顔。


頑張っている時に誰も頼れる人がいなくて、笑い飛ばすしかなくなってしまう時に出る……自分への嘲笑。


嘘でないことは見れば分かります。

こんな人でも、そういう顔をすることが……あるんだ。

だからなのかもな……。

君みたいな苦しんでいる人を見ると、いても立ってもいられなくなる。

おこがましいかもしれないけど、俺が一番、君の不安を分かってあげられる自信あるんだ。
そんな顔をするのに

――こんな優しい人でいられるんだ。

夢月くん……。
夢魔を消せば、悪夢からは解放される。でも、今の君が抱えている苦しみがゼロになるわけじゃない。
それを今のまま残し続けたら、君はずっと独りのままだ。


そんなの……絶対に嫌だ。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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