終節「満月 2」
文字数 2,605文字
最近は患者さんも少なく、平和な日々が続いています。
しかし、毎日昼から夜への切り替えは大変。
まずはカフェ店内を整理して掃除するところから……。
いつも通り進めていると、
扉が開く音が店内に響きました。
いえ、予想外に嬉しいお客さんです!
ヨウタくんに高速で駆け寄りました。
仕方ありません……。
あの日以来、初めて会うのですから。
その後ろを夢月くんが同じように追いかけます。
嬉しそうに苦笑いをしてくれました。
そのままの姿勢で柔らかく言葉を紡ぎ始めました。
……私たちの治療は心に関するもの。
その完全な成果を確認できる機会は限られています。
このお母さんからの言葉が、私と夢月くんにとって
大きな安堵と自信に繋がることは間違いありません。
心からの笑顔を初めて見せてくれました。
彼女の力になれたのは何だか、1人の女性として嬉しくて……私もつい笑みが零れてしまいます。
ですが――
それを自分の成果にはしたくない。
そして私はこんな時にかけるべき言葉を、
奇しくも今日教わっていたのです。
また貴方には助けられてしまいました。
夢月くんの代わりのはずが……嬉しくてつい……
しゃがみ込んだお母さんが制止します。
やはり今でもヨウタくんの夢の世界にいるようです。
あの日見た印象のまま、生まれ変わった夢魔……ムツキは、
ヨウタくんの心の支えとして彼と共に在ってくれている。
トテトテと駆けていきます。
手を繋いだ時、顔をくしゃくしゃにして
笑ったのが見えました。
…………。
"やり遂げた"と実感できた気がします。
彼にもきっと、思うところがあったのでしょう。
そう、それは――
お母さんに告げていたことから明らかでした。
吏星さんは、そういう人です(笑)
知っていてのこの切り返し……。
蓮夜さんもそういう人、ですね……。
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