13節「本心 2」

文字数 1,405文字

…………。
夢月くん……

…………。

今の彼は……聞かないかもしれない……。

私の言葉を……想いを……。


でも――

……そうだね。

夢月くん、何にも分かってない。

――そんなことは承知でここにやってきた。
…………。

ここからは出て行かないよ。

私たちは別に、夢月くんのために来たわけじゃないから。

え……?
夢魔を祓って、夢月くんを元に戻したいって。

夢月くんがどうかなんて関係ない。

私たちは、そうしたいと思ったからここにいるの。

夢月くんを助けたくて。

彼の力になりたくて。


ただそれだけを想って、私は行動しました。

そら……。

それは誰かのためじゃなく、自分のため。

見ようによっては、独りよがりなのかもしれません。


けれど、それがきっと彼のためになると信じて、

勇気を持って私は自分の意志に従いました。


何故なら……

それはね……今まで夢月くんがしてきたこと。

あ……
……伝えたかったから。


私が夢月くんから受け取ったのと同じものを

彼にも届けてあげたかったから。


彼が自分で自分を認めることができないなら

私が彼に見えていないものを教えたい。


私が彼と……同じ治療をすることで……!

……誰だって一番辛い時には、自分の気持ちに寄り添ってくれる人を求めてる。

分かってくれなくて良い。

理解してくれなくて良い。

本当は駄目だって分かってても、ただ甘えさせてくれるだけの人がそばにいてくれたらって思うの。

夢月くんは誰に対してもそういう人になれる、特別な人。
……前は気休めしか言えなかった。

けれど今は違う。


私も同じ場所、同じ立場で

あなたに言葉をかけられる。


あなたの良いところを、自信を持って伝えられる!

…………。
……俺は……
…………!!

思わず恐怖から身震いしてしまうほどに

冷たく厳しい……拒絶の表現。


それは、私が初めて夢月くんから向けられる表情でした。


いつだって誰かを気遣って笑ってくれる彼が今、

怒りと哀しみに顔を歪めて私の前に立っている……。

自分勝手に周りを振り回して……

できもしないのに調子に乗って……

吏星に言われたことも分からなくて……

迷惑ばっかりかけて……!

本当は誰のことだって理解できてない――
ただ独りで突っ走ってるだけの、

どうしようもない奴なんだ!

――――――――
それでも……こんな状況でも……

あなたは私を責めないんだね。


どこまでも自分を責めてしまう、

優しすぎるあなた。

え……?
だったら負けない。
どうしようもなくなんかない!

夢月くんは、それでちゃんと周りの人の力になれてる!

そんなあなたに、私は負けない。

みんなのことを理解できなくても……

みんなの"気持ち"を分かろうとしてくれてる!

……!!

あなたが自分を責め続けてしまうなら、

私はそんなあなたに全力で立ち向かう。


私はもっと素晴らしいあなたを

あなたに知ってもらいたいから。


あなた自身に……

それを認めてあげてほしいから!

誰だって100%相手を理解できるわけじゃない……!

だからみんなで助け合うの……!

分からないところを補い合うの……!

涙が伝う頬をそのままに、

情けなく震える声で私は叫びます。

私たちはそれを知ってる!!

それに気付いて……

気付いてあげて……!

夢月くん!!

――――!!

届かないかもしれない。

傷つけてしまうかもしれない。


でも……どうか受け取って夢月くん……!


今の私の……精一杯の想いを!!

しまったッ!!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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