15節「明日を照らす光 6」

文字数 1,975文字

目の前が光に包まれて数刻……。

恐る恐る目を開けると、輝きは終息し元の夢空間に戻っていました。


安堵すると同時に慌てて夢月くんの方を見ると、

そこに大きな夢魔の姿はもうありません。

…………。
私に見えたのは、自分より背丈の低いものを

驚いた顔で見下ろしている夢月くんの姿。


そして、夢月くんが見下ろしているその……

…………?
…………えぇ?
い、犬……?
……はい、犬、です。

確かに……犬、です。

紛れもなく犬、のはずです。

犬……?  は元気よく声を上げると、

軽快に走り出し夢月くんの横を通り過ぎます。

そのままヨウタくんの足元にすり寄り、

お座りをして彼の顔を見上げました。

え?  僕?
ワンワン! ワン!
も、物凄い勢いで尻尾を振っています……。

普通に……喜んでいるのだと……思います……。

クゥーンクゥーン……

言うまでもなくこの犬は……

先程まで対峙していた夢魔の変化した姿なのでしょう。


どうしてこうなったのかは私には分かりません。

でも……夢月くんが何かをしたおかげということは、分かります。

え?  え?

お前……

……そっか、そういうことか。
恐ろしい姿でヨウタくんを苦しめていた夢魔が

今はヨウタくんに受け入れられる姿で、彼のそばに座っている……。


これは……つまり……

お兄ちゃん……?

……一緒に

…………!
夢魔がヨウタくんを苦しめることをやめ、

彼を支えることを選んだ、ということ。


そして夢月くんが夢魔との対話を試みたことで、

私達が全く想像もしていなかった未来を実現したということ……!

ずっと一緒に……

いてくれるの?

ワン!

ママがいない時も……?
ワン!
もう独りでお留守番しなくていい……?
ワンワン!!
ヨウタくんの不安を打ち払うように、

「心配するな」と宣言するように、


元夢魔は彼の隣りで、その澄んだ鳴き声を響かせました。

やった……やったー!

よろしくね! ワンちゃん!

クゥーン!

恐らくヨウタくんは、お母さんがずっとは

家にいられないことを理解しています。


だからこそ、彼の心が最も恐れているのは……


"ひとりの時間"です。


その時間を埋めてくれる存在を、

今までずっと求め続けてきた。

…………。
同化したことで伝わってきたヨウタくんの心の闇。


それを私が伝えるまでもなく夢月くんは、

1つの解決を導いてしまったのです……!

良かったな、ヨウタ……。

夢魔を……浄化した……?

早乙女……お前は一体……?

ずっと黙ったままだった吏星さんの声が心に響きました。


その反応から察するに夢月くんの力は、

夢想師としても一般的なものではないようです。

分からない……。

無我夢中だったから……。

でも、俺はこれで良い。

こうなれて良かったんだと思う。
これが治療として正しい形なのかは未知数なんだと思います。しかし、それは今の私が考えるべきことではありません。


ただ私は今……

目の前で起きていることについて、

正直な気持ちを伝えてあげたい。


私とヨウタくんのそばで、

誰よりも頑張ってくれた――彼に!

そら……

すごかった!

すごかったよ!

そら……

へへッ!  ありがとな!

全くそれらしいことは言えなかったけれど……

今の私の気持ちを精一杯、全身で彼に伝えました。


きっとそれが、彼のさらなる自信に繋がると思うから!

お兄ちゃん!

そんな私達を見て、ヨウタくんが駆け寄ってきます。

隣りには、すっかり仲良くなったワンちゃんも一緒です!

すごかった!

すっげーーーーーすごかった!!

……わ、私とほとんど同じ反応を……。

もしやこれも……同化の影響……?


……でも、それも今はすごく嬉しく微笑ましい。

"心"からそう思います。

ヨウタのおかげだよ。

俺だけじゃこんなこと絶対できなかった。

僕も、お兄ちゃんの力になれてたってこと?

もちろん!

嬉しい!

ハハハ!!

…………。
満面の笑顔で元気いっぱい話していたヨウタくん。

今度は少しだけ顔を曇らせ、恥ずかしそうにボソッとした声で喋り始めました。

……あぁ。

ママを困らせたりしないかな?

大丈夫。

……弱虫だって思われないかな?

誰だって、独りでいるのは寂しいんだ。

ヨウタだけじゃない。

みんな一緒だよ。

ヨウタくんは今まで幼いながらずっと

この孤独と戦ってきたのでしょう。


"孤独"という概念すら理解できぬまま、

独りの時間を耐え抜いてきたに違いありません。

目が覚めたら……言ってみるね。

でも今はもう、その必要がないという

ことが分かったと思います。


自分を助けてくれる沢山の優しさに囲まれたことで。

お兄ちゃんが……悪い奴とも仲良くなれるって教えてくれたから。

僕は大好きなママと……もっと仲良くなる。

その意気だ!  ヨウタ!

うん!

(色々あったけど……

これで晴れてハッピーエンド……かな!)

夢魔との戦いを終えた私達は、

お母さんに報告しに夢うさぎに戻ります!

『ナイキスTAS』の最新情報はTwitterをチェック!

@viewsquad_tw

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色