15節「明日を照らす光 3」

文字数 2,391文字

夢月くんが空間を割くように剣を走らせると、

ヨウタくんに憑いていた夢魔が出現……!


馬のような形をしていますが、

その大きさは象を遥かに超えていて……。


単純な大きさだけなら、夢月くんに

憑いていた夢魔以上に感じます……!


私がその存在感に圧倒されていたその時――

早乙女!  聞こえるか!

――聞こえるはずのない声が、

私の心に直接響いてきました!?

……え、

り、吏星!?

え、えぇ!?

声は聞こえるものの、吏星さんの姿は見えません。

そして、ヨウタくんにこの声は届いていないようです。

前に推測した通り、そいつは馬種の夢魔で間違いない!

今から俺がお前をオペレートする!

確実にそいつを仕留めて帰ってこい!

……了解!

頼もしいや!

同化は確か心を拡張する技。

つまり吏星さんはヨウタくんに夢入りできなくとも、私の影響力が強い"外側"に干渉することはできる、ということですね……。

その応用力に私自身も驚いてはいるものの、

今は知識が豊富な吏星さんが夢月くんに声を届けてくれる事実が、何よりも心強いです!

行くぞ、早乙女!

あぁ――――!!

剣を構えた夢月くんが夢魔に向かって疾走。


それを睨みつける夢魔の口より漏れる煙から

その警戒心が伝わってきます……!

回り込むのに時間がかかる側面を取れ!

――――!!

夢月くんは吏星さんのアドバイスを耳にした瞬間、

右足を強く踏み抜き、高速で左に跳びました。


着地前に剣を地面に突き立て、その勢いを前方向に変換。目にも止まらぬ勢いで回転し、夢魔の左側を陣取ります!

その動きに反応した夢魔は、夢月くんを

正面に捉えようと時計回りに動き始めました。


しかし身体が大きすぎることもあり、

その動きは鈍重と言わざるを得ません。

旋回方向に合わせて動き、尾を斬り落とせ!  それで側面への攻撃行動を9割無力化できる!

――――!!
吏星さんの指示通り、夢魔の動きに

合わせて夢月くんが駆け出します!


そのスピードに夢魔が追いつけるわけもなく、夢月くんはあっという間に尾っぽの付け根に到達しました!

閃く斬撃が夢魔の大きな尻尾を完全に切断。

夢魔は痛みからか、よろめきながら耳を劈く叫び声を上げました……!

そのまま後ろ足を全力で斬り抜け!

四足のどれかを欠けば、空間への直接干渉も行えん!

間髪入れず吏星さんから指示が飛びます。


夢魔に反撃の隙を一切与えない完璧な指揮。

それを的確に遂行する夢月くんの戦いぶり。


2人とも――

ッうおおおおおおおおおおおおお!!
――いえ2人だからこそ……すごい!

よーし、このまま一気に……!!

――待て!!

……!?

突然、夢魔の身体の一部が溶け出したかと思うと、その液体が夢月くん目がけて弾丸のように弾け飛んで行きます……!

うわ――!
間一髪、夢月くんはその全てを

剣を振るって撃ち落とします。


今のは一体……?

クソ、なんだなんだ!?

夢魔は動物を模しているだけで本物の動物ではない!  損傷時には一部流体化して、特異行動を取ることもあるから気を付けろ!

さ、先に言ってくれよな~……。

お前が話を聞く前に飛び込むからだろう……!  リスクはある程度自分でも想定して動け……!

天高く跳躍した夢月くんの放つ超高速攻撃。

夢魔に無数の傷が刻み込まれて行きます。


自分の夢の世界で夢魔に攻撃した時よりもさらに速く!

残像を残す勢いで、剣閃を夢魔に突き立てます!

攻撃の一瞬の合間を塗った夢魔の咆哮……!

「待っていた」と言わんばかりに全ての傷口から液体が吹き出し、マシンガンのように夢月くんに襲い掛かります!

同じ手は……食わないぜ!!

飛んでくる攻撃を最低限の動きで回避し、

かわし切れない攻撃は剣でいなし……


夢月くんは決して後退することなく、夢魔との間合いを詰めて行きます!

チョトツ・モーシン!!

よし……!

チョトツ・モーシン……。

夢月くんは初めて会ったあの日、2人の心を繋いだブレイブテイカーの技を……ヨウタくんの前で再現したのです。


夢月くんらしい"ファンサービス"……でしょうか!

カ、カッケェ~……

お兄ちゃん、すごいね!

うん……でも……

……?

チョトツ・モーシンを見たヨウタくんは、夢月くんの活躍に目を輝かせながらも、何かどこか浮かない表情に見えます。
ヨウタくん?
やはりさっきから何か、何かが引っかかる……。

でもこの状況でそれを想像する術が私にはありませんでした。


ヨウタくんは一体何を……?

はああああああああああああああああああああ!!

私がヨウタくんに気を向けているうちに

夢月くんが決定的な一撃を夢魔に浴びせます。


もう身体から液体を噴射することもできず、

夢魔はその場で完全に沈黙しました。

…………。

――勝負あり、だな。

息も絶え絶えで、声を上げることもできず、

その場でビクビクと痙攣する夢魔を、夢月くんが静かに見つめています。


先刻、自身の夢魔の最期にしたのと同じように。

…………。
……吏星……ちょっと……

どうした? 早く止めを刺せ。

昼の二の舞になりたいのか。

……!!
…………。
夢月くんは夢魔の首の辺りに剣を当て、

その感触を確かめるように静止。


次の瞬間には大きく振りかぶって、最期の一撃を夢魔に叩きつけようと試みます。

……はぁ!!
――その時でした。
私の隣りで座っていたヨウタくんが急に立ち上がり、

夢月くんの背中に向かって走り出したのは。

ちょっと、ヨウタくん……!?

やめて……

お兄ちゃんやめてえ!!

ヨウタくんの聞いたこともない大きな声。

それが夢月くんに届いた瞬間……。


彼が手に持っていた剣の刃先が砕け散り、

その柄は手中から吹き飛んで消えました。

え、剣が……!?

慌てて夢月くんが夢魔から距離を取ると……
…………。
ヨウタくんが独り駆け出し、

その間に割って入ります。

まるで、夢月くんから夢魔を守ろうとするように……。

ヨウタ……!?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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