12節「閉じられた夢 1」

文字数 1,435文字

それじゃ、僕は向こうでヨウタくんの様子を見ているよ。
あとは2人……

いや3人でごゆっくり。

蓮夜さんは、少しだけ微笑んでそう言い残し、

治療室に向かいました。

……始めるぞ。

心の準備は良いか?

……はい。
共心者が夢の世界に入る手順も、基本的には夢想師と変わらない。夢入りと同じく、心のパイプを繋ぐ必要があるが……

今回は相手が早乙女――信頼関係の構築されている相手だから、その点はパスできる。

……もっとも、俺は拒絶されても文句は言えん立場だが。
……吏星さんが深く後悔しているのが

伝わってきます。


吏星さんが、誰よりも自分の過ちを恥じて、

抱え込んでしまう優しい人だということを、

私は知っています。

……大丈夫。
今だって、無理していないわけがありません。
夢月くんは分かってくれてると思います。吏星さんのこと。
俺のせいでこんなことになってしまって。
そんな……

吏星さんのせいじゃありません。

全ては俺の判断ミスが招いた結果だ。

俺が早乙女と向き合えていれば、お前にまで危険を強いることはなかった。

大きな責任を彼が感じているのが分かります。

でも、それは私だって変わりありません。

私だって……

夢月くんに無責任なこと言っちゃったんです。

「きっとできる」って、夢月くんの気持ちも考えないで押し付けて……。
それも、俺がお前に任せてしまったから起こったことだ。

お前は何も……

…………。

吏星さんの言っていることも、きっと正しい。

「元を正せば……」という意味では。


でも、私は……

そんな風に彼に自分を苦しめてほしいと思いません。

それはすごく、悲しいことだと思うから……。

天崎……。

さっきも言いましたけど……

私3人の力になれるなら何だってやるって決めたんです。

だから今は、できることが増えて嬉しいくらい。
不謹慎かもしれないけど……本当にそう思うんです。
みんなで……頑張りましょう。
誰も悪いことはしていないはずだけれど、

誰もがそれぞれ問題を抱えている。

そしてそれが、最悪の形ですれ違ってしまった。


今回の件は、そうして今の状況を迎えてしまいました。


だから……誰か1人のせいなんてこと、ありません。

…………。
……そうだな。
はい!

夢うさぎの皆でこの苦痛を分かち合って、

乗り越えて行かなければならない。


私はそう思います。

――手を繋いでくれ。

天崎が眠りについたタイミングで、俺がお前を先導する。

夢想師の治療を受けたお前なら、他人の心と自分の心が近付く感覚が分かるはずだ。

分かりました。
私は彼から差し出された手を、

固く握り締めました。


そうすることで初めて、自分の手が恐怖と不安で震えていることを自覚できました。

同化に必要なのは、理解ではなく包容。

相手の在り様をそのまま自分の内側に入れることだとされている。

夢想師である俺には実のあるアドバイスはできんが……。

有事の際は必ず俺が何とかする。

安心して臨んでくれ。

吏星さんからの「何とかする」という言葉、

それが今はとてつもなく頼もしくて……。


不安が胸からスッと引いて行くのを感じました。

……はい!

行くぞ……!

…………。

他人と心を通わせるには、

患者さんの隣りで私たちも眠りに就く必要があります。


通常の睡眠とは異なった感覚だそうですが、

今回の私は吏星さんに手を引っ張ってもらってことで、何とかそれを掴みます。


いよいよ私たちの挑戦が始まります……!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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